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「ワー……ワー……アー……」
早く、早く……
僕はベッドの中でギュッと目を瞑り、耳を両手で強く塞いだ。
一刻も早く、眠りの波にさらわれたかった。
それなのに、ちっとも眠気はやってこない。それどころか、心臓はバクバク胸の中で大暴れ。走ったわけでもないのに息があがる。
ガラガラン!と、何か物がぶちまけられたような激しい音がした。
「ちょっと、物にあたらないで! 大翔が起きるでしょ⁉」
「お前が――……だろ⁉」
「何よ!あんたの――……でしょ? 少しは――……あげなさいよ」
「うるせえ!」
時刻は午前零時を回ったところ。
階下からは両親が喧嘩する音が途切れることなく聞こえてくる。
今日はいつもの口論と違って激しい。
家は、築二十年の一戸建て。
二年前、十才年の離れた兄ちゃんが高校を卒業し、就職のために家を出た。やっと今年になって兄ちゃんが部屋を片付けてくれたので、僕が兄ちゃんの部屋をもらい受けたのだ。日当たりのよいエアコン付きの快適な部屋のはずだった。
一階の隅っこにあった以前の部屋と違い、この部屋はリビングの真上にあるため、リビングでの音が壁伝いによく聞こえてくる。テレビの音や話し声。それらは、兄ちゃんがいなくなって妙に静かになった家に、一人じゃないとわからせてくれる安心の音だった。
それなのに、最近は口論する声も聞こえてくるようになった。
両親の仲が良くないことは知ってはいたけれど、こんな大喧嘩を目の当たりにするのは初めてだった。
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