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 大翔、ごめんな……  俺は、処方されたばかりの眠剤をひとつひとつシートから取り出して、机の上に並べた。三シート目に手をかけたところで、静かな部屋にスマホの着信音が響いた。  着信音に驚いて、ビクンと体が揺れた。  液晶を見ると大翔だった。  こんな時間に?  咄嗟に体が動いて、気がつけば電話をとっていた。  電話の向こうの大翔は泣いていた。どうしていいのかわからないといった様子で、怯えていることが伝わってきた。  話を聞けば、両親の喧嘩の声にビビったらしい。  俺の部屋に移ったから、聞こえるようになっちゃったのか……  俺が出て行ったら喧嘩なくなると思ったんだけどな……  大翔が俺の助けを求めている。  俺にもまだできることがある。    そう思ったらいてもたってもいられなくなって、雨の中、俺は車を走らせた。    ベソをかきながら家から出てきた大翔は、俺の顔を見るなり安堵の表情を見せた。  その顔を見たらなんだかすごくやるせなくなった。だから気持ちを紛らわせるために、俺はステレオから流れる洋楽のリズムに乗って、歌を口ずさんだ。  何気なく口ずさんだのに、その洋楽の歌詞が胸に刺さって歌えなくなって、鼻歌で誤魔化した。    "永遠の命なんかない 命ある限り生きていたい"  何十回も聞いて、いつも何気なく歌っていたのに……そんな歌詞だったことに今更ながらに気付いてしまったんだ。  いつしか助手席からスースー寝息が聞こえてきた。  いつものドライブコースの終着点。森林公園の駐車場に車を停めた。  真夜中にこんなところに来る奴なんて誰もいない。  フロントガラスを打つ雨粒のリズムが次第にゆったりしてきて、俺は大翔を起こさないように外へ出た。   湿り気を帯びながらも、昼間よりも涼しい風が通り抜けて、雨が上がった。  濡れたアスファルトの香り、カエルの合唱、それから、雲間から覗く星空。  あぁ、俺、今……生きている。  そう感じたとたんに、心が叫んだ。  死にたくない!  生きたい!  突然、寝ぼけた大翔が俺に抱き着いて来た。「行かないで」と力を込めて、僕にしがみつく。    止まない雨はないと、誰かが言っていたっけ。  明けない夜はないだったか?     東側の空の色がほんのりと明かるさを帯びてきたように見えた。  どうせ死ぬなら、悪あがきしてやろう……  かっこ悪くたって、最期のその時まで命を絞りだしてやろう。  そう決意したら、今まで我慢していた涙が頬を伝って流れ落ちた。     
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