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 どうしよう……  早く終われ……お願いだから早く………  そんな僕の願いに反して、喧嘩は少しずつエスカレートしていく。  兄ちゃん!  僕は不安でいっぱいになり、いてもたってもいられなくて、キッズ携帯から兄ちゃんのスマホに電話をかけた。そもそも、僕の電話帳にはママと兄ちゃんの番号しか登録されていないから、その二人にしか発信できない。    トゥルルルルと五回呼び出し音の後、すぐに兄ちゃんが『もしもし、大翔? どした?』と、心配そうな声で電話にでた。  僕はその優しい声を聞いたとたん、我慢していた感情が溢れ出した。 「兄ぃちゃ……うぐっ……うぇぇぇ」  しゃべりたいのに、声が震えて言葉にならない。 「大翔?」 「たす……けて……け、喧嘩……パパとママがぁ」  僕がそう言うと、兄ちゃんは「あぁ~……」と低い声を出し、小さくため息をついた。  そんな話をしている矢先にも、階下でガシャーン!と、何かが壊れる音がして「ひぃ!」と声が漏れた。  「大翔、落ち着け……少し待ってろ。十分、いや……十五分でそっち行くからな!」  僕の返事を待たずに、兄ちゃんはプツリと通話を切った。  兄ちゃんの職場は、家から通える距離にある。それなのに兄ちゃんは家を出て一人暮らしをすることを決めた。  仕方のないことだとわかっているけれど、大好きな憧れの兄ちゃんが僕を置いていったことは、すごく悲しくて、恨めしかった。  それでも兄ちゃんは、パパがいない時にはよく遊びに来てくれた。時間に余裕のある時は、僕をドライブに連れていってくれることもあった。  兄ちゃんが来てくれる!  そう思っただけで、バクバクしていた心臓が少しずついつものリズムになっていき、不安が和らぐのを感じた。
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