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 キッズ携帯を握りしめて、布団の中でお気に入りのアニソンを歌って兄ちゃんを待った。  五曲目を歌っているところで、ブルブルとキッズ携帯が震え出した。  「兄ちゃん!?」  僕がすぐに電話に出ると「着いた。出てこれる?」という優しい声と、電話の奥から一定のリズムで動くワイパーの音が聞こえた。  全然気が付かなかったけれど、外は雨が降っているらしい。  僕は布団から抜け出すと、物音を立てないように部屋を出た。手すりをつたってソロソロと階段を降りていく。  パパとママはまだ何やら話をしていた。ママのすすり泣く声に、僕は胸が締め付けられて苦しくなる。  階下へ降りる階段は直接玄関に繋がっていて、僕は階段を降りきると、一目散で玄関に向かった。そして、そろえて置いてあるスニーカーを履いて家を飛び出した。  もわっと土の湿った雨の匂いを感じる。日中はそれなりに暑かったのに、すっかり涼しくなっていて、半そで短パンのパジャマ一丁で出てきたことを後悔した。  玄関ポーチのセンサーライトが僕を見つけて、やんわりと灯った。  家の前には、兄ちゃんの白い軽自動車が停まっている。  兄ちゃんは、僕が家から出てきたことに気づいたらしく、ヘッドライトをつけた。  僕は急いで兄ちゃんの車に乗り込んだ。  「おう、大翔。大丈夫か?」  カーナビのライトに照らされた兄ちゃんは、眉を下げて優しく笑った。  パパとママの喧嘩の音がこわくて、部屋では不安でいっぱいだったのに、兄ちゃんの顔を見るなり心細さや不安が一気に消えていった。
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