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 「大丈夫だよ、あの人たちの喧嘩はいつものことだから……」  兄ちゃんはそう言いながら、雨で濡れた僕の頭をワシャワシャっとなでまわした。  それから、後部座席に手をのばし「これ、羽織っておけよ」と、くたくたのパーカーを僕の頭からバフっとかぶせた。その瞬間、懐かしい兄ちゃんの香りに包まれて暖かくなった。  兄ちゃんの車は、いつものドライブコースを走っていた。  田舎道は街灯が少なく、ヘッドライトで照らされている方向しか見えず、辺りは真っ暗。  兄ちゃんとのドライブはいつも日中だったから、こんな真夜中のドライブは初めてで、なんだか悪いことをしているみたいでドキドキする。  兄ちゃんは、カーステレオから流れるテンポの良い洋楽に合わせて、ハンドルを握っている手でトントンとリズムを刻む。そして、サビの部分だけ少し口ずさんで、その後は鼻歌にして歌詞を濁した。適当に歌っても僕にはわからないのに。  その鼻歌は子守唄となって、僕のまぶたはだんだんと重くなっていった。そして、いつの間にか眠ってしまっていた。     目覚めた時、車は森林公園の入り口の駐車場に着いていて、気がつけば、運転席にいるはずの兄ちゃんの姿がそこにはなかった。  僕は急に不安になって、辺りを見渡した。  いつの間にか雨は上がっていて、車から少し離れた場所に、頼りない街灯に照らされてポツンと立っている兄ちゃんを見つけて、ホッとため息がもれる。  僕はシートベルトを外して、兄ちゃんのだぶだぶのパーカーに袖を通し、助手席のドアを開けた。  ゲコゲコと遠くの方で聞こえていたカエルの鳴き声が、大きくなった。大合唱だ。   天気のいい日の日中なら、家族連れやペット連れのカップルなどで賑わっている公園だけど、さすがにこんな遅い時間に僕らの車以外一台も停まっていない。広い駐車場に、僕たちは二人ぼっちだ。
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