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 「兄ちゃ……」  僕は、兄ちゃんに近づこうとして足を止めた。  兄ちゃんは空を見上げて、今まで僕に見せたことのないような顔をしていた。別人なんじゃないかと、一瞬目を疑ったほどだ。  険しく、悲しそうな、今にも泣き出してしまうのではないかというような、そんな表情を浮かべていた。そしてなぜだか急に、静かな夜の闇にのまれて、兄ちゃんがどこか遠くへ行ってしまうような気がした。  「おわっ!?  大翔?」    何がそうさせたのかわからないけれど、僕は思わず兄ちゃんに駆け寄って、思いっきり抱き着いた。ぎゅっと腰に手を回し、お腹の辺りに顔をうずめた。    「兄ちゃん、行かないで……」  「なんだよ、怖い夢みたのか? ……寝ぼけてんのか?」  穏やかな声が、兄ちゃんの体をつたって僕の耳に届く。  見あげると、兄ちゃんはいつものようにフフっと優しく微笑んだ。    「大翔、背伸びたな」  兄ちゃんはそう言って、僕の頭にポンと手を乗せた。    「うん! 早く追いつきたい」  「そうだな~……百年早いな」  兄ちゃんはそう言って、歯を見せてニカっと笑った。  「え〜⁉︎」と、僕は頬を膨らましたけれど、僕は兄ちゃんの体の違和感が気になっていた。  僕が成長したせいか、腰に回した腕が前より余裕があったのだ。そして心なしか、兄ちゃんの体は少し骨張って感じられた。    兄ちゃん……やせた?  なんだか胸がざわざわとして、落ち着かなくなった。    「なぁ、見ろよ大翔。星がキレイだ」  そう言った兄ちゃんはいつもと変わらない様子だった。  見上げた夜空は、兄ちゃんの言う通り無数の星が瞬いていて綺麗だったけれど、僕はまた、兄ちゃんのお腹の辺りに顔をうずめて、回した腕にギュッと力をこめた。  兄ちゃんは少し間を置いて、何も言わずに、僕の背中をポンポンと叩いた。  雨は上がって星空なのに、何故だか僕の頭に雨粒がポタポタっと降ってきた。
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