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 この数日後、兄ちゃんは隣の市にある大きな総合病院に入院した。  兄ちゃんは、成功率40%という手術をしないと助からない病気だったんだと、後になってママから聞いた。手術が成功しても、治療は続けなくてはいけないし、5年生きられる確率は約30%だって。  兄ちゃんは、手術を受けるか受けないかで悩んでいて、「大翔には言わないで」とママに頼んだらしい。    「どうして教えてくれなかったんだよ!」  僕は心の底から怒りがわいて、ママに八つ当たりをした。  知っていたら……  知っていたらもっと何か……  ──知っていたらなんだよ。僕に何ができた?  自分の無力さに腹が立つ。  あの日の兄ちゃんの顔が忘れられない。    星を見ながら兄ちゃんは僕に言った。  「大翔、この先、お前はいろんな壁にぶち当たると思う。つらくて苦しいことだってたくさんある……どうしようもないことだって……けど、誰かや何かのせいにする生き方はするな。くよくよするな。自分の幸せは自分で手に入れろ」  苦しかったはずなのに、つらくてやるせなかったはずなのに、兄ちゃんは笑ったんだ。    僕の未来を想ってくれたんだ……  自分がいなくなるかもしれないと思って、僕に"強く生きろよ"と、伝えてくれたんだ……    
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