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 「母さん、お盆は道が混むんだからさぁ……早くしてよ」  僕は玄関先で、お供え用の果物やお線香が入った鞄と花束を抱えて、冷蔵庫の中を探っている母さんに声をかけた。  「あぁ、あったあった! お兄ちゃんが好きなレーズンバターサンド買っておいたのよ」  「わかったから、早く早く……」  「んも~……大丈夫よそんな急がなくても。お墓は逃げないんだから」  「車に荷物積んでるからね」  「はいはい……まったく、大翔はせっかちなんだから」    僕は準備が整っていない母さんを置いて、家を出た。  通り雨があったのか、道路も車も濡れていた。  雲間から青空がのぞき、じりじりと肌を刺す強い日差しが、車についた水滴に反射してキラキラと輝いて見えた。  あれから八年か……  僕は眩しさに目を細めた。  母さんは、僕が中学に上がる時に離婚した。  僕は母さんと家に残り、父さんが出ていく形となった。高校卒業と同時に車の免許を取り、春から救急救命士になるための専門学校に通っている。  「じゃ、出発」  助手席に乗り込んだ母さんにシートベルトの着用を促し、僕はバイト代を貯めて中古で買った軽自動車を発車させた。
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