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「あんたの運転する車に乗る日が来るとはね……」
母さんが運転する僕の横顔をじっと見つめて、ため息をつく。
「あんたには苦労させたけど、真っすぐに育ってくれて良かったわ」
感慨深そうに母さんは目元に手を当てた。
「え? なになに、泣いてんの?」
「……うん、だって大きくなったなーってさ」
「……あぁ」
「あんなに怖がりで泣きべそだったのに……ちゃんと目標を持ってさ~……」
「うん、まあ……ほら、それはさ……兄ちゃんのおかげだよね」
僕は小さく呟いた。
「そっか~……あんた、兄ちゃん子だったもんね。だからね……本当、あの時は……」
「……うん」
母さんと僕はそう言って黙った。
一気に空気が重くなる。
「おい!」
沈黙を破ったその声と同時に、ボンっと、運転席のシートに軽い衝撃を感じた。
シートを蹴られたというような衝撃だ。
「何で二人してしんみりしてんだよ……人を死んだみたいに話すなよなぁ……」
ルームミラーで後部座席を確認すると、さっきまで母さんの準備の遅さに待ちくたびれて居眠りしていた兄ちゃんが、呆れ顔で笑っていた。
「あら、起きたの……バターサンドあるけど食べる?」
「んー……あとで。ってか、大翔の運転で大丈夫?」
「ウフフ……命がけの墓参りね」
「もう! 何なの、二人とも……大丈夫だってば」
僕がムキになったので、母さんも兄ちゃんも、アハハ! と声を出して笑った。
僕は不貞腐れて、カーステレオのボリュームを上げた。
ステレオからはあの夜中のドライブで聞いた洋楽が流れていた。
僕はトントンとハンドルを指で叩き、リズムに乗って口ずさむ。
兄ちゃんも、母さんも「お!」と、歌に反応して歌い出して、車内は大熱唱大会となった。
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