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 雨降りの夜。  付き合い始めてまだ半年しか経たない恋人に、一方的に別れを告げて、俺は死のうと思っていた。  どうせ長く生きられない体なら、いっそのこともう消えてなくなりたいと思った。  腹痛でたまたま撮ったCT検査で見つかった病巣は、ほっとけば数年内に死に至るという。腹痛の原因は別にあって、医師からは「この病巣がこんな早期に見つかることは珍しい。君はラッキーだ」と言われた。  ラッキーなら、そもそもこんな病気になんてならないんだよ! と思ったが、それを言ったところで状況は変わらないので、俺は「はぁ」と、聞き流した。  ラッキーなはずなのに、手術の成功率は低いし、その後もつらい治療が待っている。    ──俺は、そこまでして生きる価値のある存在か?  治療には金だってかかる。5年生存率も低いらしい。  実の親父からは愛情をそそがれた記憶はない。それに、親父の再婚相手はいい人だが、俺と親父の狭間でいつも苦労をしていた。  俺と親父の不仲をどうにか取り持とうといつも必死になっていたから、俺は高校卒業とともに家を出た。  そんなだから、俺がいなくなれば義母も変に気を遣うこともなくなって、苦労もなくなるだろ……  ただ一つ、気がかりなことは、義弟の大翔だ。  大翔が物心つくころには兄として傍にいたから、大翔は俺を慕っている。  俺がいなくなったら……    兄ちゃん! と、満面の笑みを浮かべて、綺麗な澄んだ瞳で俺を見上げる大翔の姿が脳裏によぎり、じんわりと目頭が熱くなった。  
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