伊藤浩司の策略

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伊藤浩司の策略

 俺は麻薬専門の刑事課の主任だ。麻薬王の五十嵐が日本に帰国するという情報を入手した。  世界を飛び回る五十嵐を捕まえるには帰国した時しかない。また五十嵐を殺そうとする殺し屋と五十嵐の護衛も確実に捕まえておきたい。  俺は五十嵐が日本に帰国してくれることを祈った。そして漸く滝のように降る雨が上がった。  晴れ上がった空の下で空港内はパニックに陥っていた。狙撃をする者とされる者、恋に落ちている者、護衛に喧嘩をふっかける者がいた。  俺は五十嵐とその部下の柊、五十嵐を狙っていた影山を逮捕した。影山の家族までいたことは驚いたが、もっとも驚くべきことは俺の娘がそこにいたことだった。 「おまえ、なんでこんな所にいるんだ。ここは危険だから離れなさい!」 「実は私の好きな人が今日、帰国する予定だったの。でも警察に捕まえられるなんて、いったいどうなっているのよ」  娘は逮捕された柊に大きく手を振っていた。半年前に娘を助けたのが柊だとは知らなかった。後日、裁判が開廷すると娘は柊の減刑を申し出た。  影山と五十嵐は当然の如く死刑に処せられたが、娘の思いは裁判官に届いて柊だけは執行猶予の判決を言い渡された。俺は柊の過去に何かあるに違いないと思ったが、真相は解明されなかった。  噂によると影山の息子は父親が死刑になったことで、終わることのない涙を流していたらしい。しかし妻の方は夫の死刑よりも五十嵐が死刑になったことの方を悲しんでいたようだ。どういう関係なのだろうか。  柊は五十嵐が創り上げた麻薬の流通システムを地盤にして裏世界を牛耳るようになった。もう手の届かない所に行った柊の周到な思惑を俺は見抜けなかった。
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