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影山慎二の願望
俺は殺し屋の仕事を長年している。愛する妻と息子にはバレないようにしてきた。
今年の異常気象に俺は憂鬱になる。それは組織から依頼された標的が日本に帰国できなくなったからだ。
標的の名前は五十嵐義武。麻薬を使って裏から世界を支配している麻薬王だ。
組織は五十嵐との話し合いを設けたが、五十嵐は組織が提示した麻薬流通計画に対して全く聞く耳を持たなかった。計画は麻薬を世間で捌きやすくするために組織が麻薬を管理している売人に流して、その手数料として上納金を支払わせるというものだった。そこで組織は俺に五十嵐を殺すように依頼した。
ただ問題が浮上した。五十嵐は世界を飛び回っていて殺すのが困難だった。五十嵐が日本に戻るという情報は掴んでいたが、記録的な豪雨の視界不良によって飛行機が欠航になった。
そして組織はあらゆる裏世界の人間が集う総会が開かれる前に五十嵐を殺さなければいけなかった。裏世界は舐められたら終わる。たった一人の人間も殺すことができないようでは他の組織が幅を利かせるようになる。
総会まで残された時間があまりない。総会は三日後に開催される。それまでに大雨が止み、五十嵐が日本に帰国すること俺は天に祈りを捧げた。
雨が上がらないことに苛立ちを覚えながら、家族にぽつりと話した。何気ない家族との会話は俺にとっては癒しだった。
「毎日、雨ばかりで嫌になるな」
「私も早く雨が上がって欲しいわ」
妻は俺と同じ気持ちのようだ。
「ずっと雨の方がいいよ」
しかし息子は俺や妻とは違っていた。その言葉にどんな意味が込められているのかわからなかった。
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