第一話

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「まさか、偶然だよ。きみたちと夢幻に面識があったことも知らなかったし」 「そうだったの」 「光祥とは最近知り合ったばかりですが、その情報網には驚かされます。同時に助けられてもいますが」  ふっと夢幻が表情を和らげると、その白銀の長髪が揺れる。  浮世離れした美しさを兼ね備える彼の雪のような肌は、透き通っていまにも消えてしまいそうだ。 「え……。ってことは夢幻、町へ出たの?」  驚いたように目を見張る春蘭に光祥は首を傾げる。 「どうしてそんなに驚くんだい?」  そういえば、と紫苑もいまさらながら不思議に思った。  夢幻は堂にこもりきりで、いつも春蘭が直接出向くか人を(つか)わして生活を保全している。  かれこれ数年に渡るが、なぜなのだろう? 「あ、その……夢幻は身体が弱くて、あまり外へ出られないの」  どこか誤魔化すような慌てた口調で答えると、春蘭は話題を転換させる。 「ところで、ふたりは何の話をしてたの?」  空いた椅子に腰を下ろして尋ねると、光祥が眉を寄せた。 「近頃、市場で薬材(やくざい)の値が不自然な変動を見せてるって話」 「薬材?」 「そうです。光祥いわく、何やら作為的なものを感じるそうで」 「ああ、施療院(せりょういん)施薬院(せやくいん)だけじゃなく薬房(やくぼう)でも薬材の仕入れが困難になってるって話を聞いてさ」  施療院は庶民の医療施設であり、施薬院は貧困層に薬材や食事の提供などを行っている部署である。  どちらも民にとっては欠かせない場であるが、常に資金不足であった。  国からの援助も、優先順位が低いためにあまり期待できない。  だが、今回はそういう話ではなかった。 「流通量の少ない薬材はともかく、市場によく出回ってる薬材でさえ価格は上昇傾向にある。原因のよく分からない、妙な変動だ」 「それは確かに不穏ね。このまま高騰(こうとう)していくのかしら……」 「光祥殿の言う通り、誰かが意図的に値を操作しているのかも」
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