第二話

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「…………」  容燕の眉間に刻まれたしわが深くなる。  この状況は明らかに不自然で、到底甘んじることなどできない。  王があからさまに元明を優遇しているのだ。  よりにもよって、元明を。  二大名門家のもう一方である鳳家の当主を。 「こんな状態で妃選びが行われては、鳳家から王妃が輩出されかねない……そうなれば我々は一巻の終わりですぞ」 「しかし、いつまでも妃選びを行わぬというわけにもいかんだろう」  妃選びによって国母(こくぼ)とも言える王妃を選出するのは、国の存続のためにも必要不可欠である。  それを避けることはできない。  問題は、容燕がその選出過程に関与できないことだった。  いくら権力を有していようと、妃選びは元来(がんらい)後宮がとり仕切るものなのである。  容燕に携わる余地はないのだ。  しかし────状況が変わった。  容燕が咳払いをしてみせると、室内は水を打ったように静まり返る。  ゆらゆらと揺れていた蝋燭の灯りさえ大人しくなった。  口を(つぐ)んだ高官たちは上座の容燕を見やる。 「そう案ずるな。王太后(おうたいこう)がおるではないか」  ほかの高官たちとは異なり、容燕の声色は至極冷静で落ち着き払っていた。  その言葉に高官たちははっと各々息をのむ。 「太后さまというと、主上と反目(はんもく)しておられる……」  高官の一人の呟きに、容燕は「左様」と頷く。  王太后は先王の正妃であり現王の母にあたるが、血の繋がりはない。  現在の王室では王以外の唯一の王族であり、後宮の長である。 「今日、太后の方から申し出があったのだ。我々の側につく、とな」 「では妃選びも後宮も意のままであると?」 「し、しかし……鳳元明には一人娘がおります。あやつは娘を利用するにちがいありません」 「それが何だ。蕭家にも適当な人材がおるではないか」  もったいつけるように告げた容燕は、口元に笑みさえ浮かべていた。 「ほかでもない我が娘、帆珠(はんじゅ)を王妃に据えるのだ」
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