第十一話

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 最後の砦である元明に拒まれては万事休(ばんじきゅう)すため、表向きの理由を急いで口にしてみせた。  名分であるのは事実だが、本質であるために説得力を伴っている。  このまま蕭家側に王妃の座を渡せば、調子づいた容燕は元明をはじめとする鳳派を排斥(はいせき)する一手を打ってくるかもしれない。  元明は別段“宰相”という地位に固執しているわけではなかったが、そこに留まることが王や家門を守るにあたって最善手である以上、してやられる形で辞すわけにはいかなかった。  蕭家の娘が王妃の座に就けば、容燕一派は外戚(がいせき)としてさらなる権力を振るい、暴政を行うだろう。  それを阻止するため、春蘭を王の妃として差し出すのが妥当であるのは確かだ。  正当で公平な妃選びなど、(はな)から行われることはない。  覆せるのは、王だけだ。頼みの綱は煌凌だけ。  彼が審査権さえ得られれば────。 「……そうですね。分かりました、主上の意に従いましょう」  頷いた元明は、はっきりと告げた。  個人的な理由があろうがなかろうが、現実的な落としどころはほかにない。  承諾を得られた煌凌は、心底ほっとしたように息をつく。……よかった。本当に。 「朔弦殿は文官を味方につけろと?」 「そうだ。……して、何ゆえ文官に限定するのだろう?」 「朝廷を動かしているのは文官諸君ですから、彼らの声は当然力を持ちます。わたしもなるべく声をかけてみましょう」  ────朝廷には派閥(はばつ)というものがある。  現在は主に蕭家を支持する蕭派と、鳳家を支持する鳳派の二派が多大なる影響力を有していた。  ただし、それぞれ内情が異なっている。  蕭派は蕭姓を持つ官吏や一門の家筋(いえすじ)の者、容燕に取り入ろうと必死な者を多く抱えているのだが、鳳派は少数精鋭。  鳳家縁者や元明を慕う者から成り、頭数としては決して多くないが、領袖(りょうしゅう)である元明の地位の高さによって拮抗(きっこう)できるだけの勢力を保ち続けているのであった。  しかし、今回の件で抱き込むにあたっては鳳派のみでは不足だろう。  いずれの派閥にも属していない文官たちまでもを引き込む必要がある。  ただ、二派に名を連ねないということは、そもそも朝廷での躍進(やくしん)や出世に無関心であるのと同義だ。  結束の強い蕭派と張り合うには何もかもが不十分。だからこそ、“何となく”という惰性(だせい)で漫然と出仕している文官たちを説き伏せるのは容易ではない。  積極的に蕭家に楯突くことには、当然ながら難色を示すだろう。  火の粉を被りたくないと思っているのに、火の中に飛び込むようなものなのだから。
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