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我が子を王にしようと思えば、必然的に太子の存在が邪魔になるのである。
だから、殺めた────。
実際に王太子は宮外で亡くなっており、遺体も残っていないというありさまだった。
山賊に襲われたあとそのまま放置されたため、野犬に食い荒らされてしまったのだ。
幼い王太子はそんな残酷な結末を迎えていた。
宮中より外の方が手を下すのが容易なため、黒幕は虎視眈々と機会を狙っていたのだろう。
手を下したのは敬眞王妃ではなく、太后である可能性が高い。
朔弦の言葉を聞く限り、悠景も同様の結論に落ち着いた。
その罪を敬眞王妃に被せ、廃位に追いやった。
玲茗は邪魔な王妃も王太子も一度に片づけたわけだ。
朔弦は目を細め、小さく息をつく。
(あの王も……ある意味犠牲者だな)
太后が現王を殺さずに生かしたのはあえてなのだろう、と考える。
すべての世継ぎがいなくなれば、また新たに側室が迎えられる可能性があった。
玲茗は子が望めない身体であるため、側室が懐妊しようものなら大いなる脅威となる。
側室を迎えるのだけは避けたい。でなければ、王太子に施したような悲劇を何度も繰り返すしかなくなる。
だから現王を生かした。
気が弱く操りやすいため、都合のよい傀儡にできるだろう、と踏んで。
「なるほどな……」
悠景は唇を噛み締めた。
“あの件”とは、このことなのだろうか。
確かに十分、脅しの材料にはなる。
白日の下に晒されれば、太后は無事ではいられないだろう。
「まあ……真実がどうあれ、こうなっては太后さまと蕭家に従順でいるほかない」
「……ええ。王がどう思おうと妃選びの実施は決定事項でしょう」
「王も我々も同じだな。己の身を守るので精一杯だ」
◇
「今日という今日はわたくし、陛下から目を離しませんからね」
小柄な内官の清羽は腕を組み、精一杯強気に宣言してみせた。
四十という齢ながら、その短い背丈と下がった眉のせいか威厳も貫禄もまったく感じられない。
「…………」
「昨日だって内侍省総出で方々捜し回ったのですよ! ひとりで勝手に王宮を抜け出す王がどこにおられるのですか、まったく……」
ここにいる、と王は思ったが口には出さなかった。
艶の走る几案の天板にだらりと腕を広げ、その上に頭を載せたまま目を伏せる。
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