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内侍省は全内官や全女官を統括する部署で、王付きの内官である清羽が統括していた。
彼は気が弱く心配性であり、一見頼りない。
しかしその仕事ぶりは優秀で、王が幼い頃からずっと仕えてきた。
即位に合わせて清羽も筆頭の内官、すなわち内侍省の長に昇格したのだが、そのきっかけがなくともいずれ任命されていただろう、と王は思っている。
だが、いつも大げさだ。
彼らが案じているのは“王”であって、自分ではないのに。
のそ、と重たい身体を起こす。
「……余は王だぞ。王は誰よりも自由であるべきなのだ」
ふん、と威張ってみたが、清羽からはため息しか返ってこなかった。
「一国の王であらせられるお方が、無断で姿を消さないでください!」
丸い頬が赤に染まっていく。随分怒っているが、言っていることは正論だ。
王は肩をすくめた。
「いいですか、宮外へ出られるならひとことお声がけください!」
「しかし、余はひとりで……」
「おひとりになりたいのでしたらそうご下命ください! とにかく、何かする際には必ずお声がけいただかないと。この清羽、心配で心配で寿命が十年縮みましたよ!」
小柄な身体を全体使って訴える清羽の勢いに半ば圧倒されつつ王は頷いた。
「わ、分かった。次から気をつける」
小姑のように口うるさいところはあるが、自分を心配してくれることは嬉しかった。
たとえそれが“王”に対するものであっても。
几案の端に置いてあった皿を引き寄せ、杏仁酥を手に取る。
無心で頬張っていると、降り積もった桜の花びらが瞼の裏を流れていった。
『あなたの名は?』
あの瞬間だけは、自分は王ではなかった────。
思い耽っていると、ばん! といきなり扉が開け放たれる。
「じ、侍中……!」
びくりと肩を跳ねさせた清羽が声を上ずらせ、恐々と頭を下げて控えた。
断りもなく踏み込んできた容燕の鋭い目配せを受け、逃げるように殿から出ていく。
王もまた戸惑いつつ、菓子を慌てて皿に戻した。
突然の来訪に驚き、むせてしまう。
現状はこのような無礼も咎められないほど、王の威厳はないに等しい。
「ど、どうしたのだ」
必死で動揺を押し込めながら尋ねる。
容燕は菓子や落書き用の半紙で散らかった几案に手をつき、ずいと威圧するように距離を詰めた。
「主上が即位されてからずっと、王妃の座が空いたままです。国の安寧のためにも、早急に妃を迎えなされ」
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