第二話

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 残された王は顔を歪め、固く拳を握り締める。  絶望感につままれ視界が揺れた。目眩(めまい)を覚え、へたりと椅子に崩れ落ちる。  頭の中がかき乱される。  九年前の記憶が、砂を()いたようにざらつく。  王であって王でない彼は、そこらに漂う空気と変わりなかった。  とはいえ、ある意味それが本望だ。 (消えてしまいたい……)  ────重々しい王の衣を着ていると、周囲は本心を隠し上辺を(つくろ)ってへつらう。  あるいは権謀術数(けんぼうじゅっすう)を巡らせ、利用しようと目論む(やから)につけ込まれる。  彼はまさしくその犠牲となっていた。  誰ひとりとして信用できず、心労の絶えない日々は、彼をさらなる孤独へと追い詰めていく。  鬱々としたため息をついた。  誰も自分を必要としない。  王でない自分は、無価値なのだろうか。 (……ちがう)  そもそも、王であろうと無価値だ。  誰も彼を見ない。  九年前からずっとそうだった。  何者かの目に映ったとしても、それは自分でなく“王”でしかない。  心に空洞ができたように、急激に虚しさが込み上げてくる。  座っているはずなのに足元がぐらぐらと揺れている気がした。彼を嘲笑うかのように。  ……誰か。誰でもいい。  いまにも倒れてしまいそうな自分を支えて欲しい。  大きくなるばかりの孤独を、埋めて欲しい。 (誰か────)  存在しない“誰か”に縋り、ありもしない温もりを求めてしまう。  願っても叶ったことなどないのに。  裂けるような心の痛みと息苦しさに喘ぎながら、目の前が暗くなっていくのを感じた。 「陛下……」  殿内へ戻ってきた清羽は泣きそうな顔で呼ぶものの、その先に続ける言葉を見つけられず口を噤んだ。  長年そばで仕えているが、彼の役に立ったことが一度でもあるだろうか。  あまりの不甲斐なさに唇を噛み締めた。
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