第三話

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(よし……少ないけどひとまず薬材は手に入ったわ)  袖の内側に入れたその存在を強く意識しながら、再び尚薬局の小門を潜った。  行灯(あんどん)で足元を照らしながら来た道を引き返していく。 (明日、また薬房へ出かけて────)  そこまで考えたとき、不意に息をのんだ。 「……っ!」  突然、何者かに背後から鼻と口を塞がれたのだ。布のようなものを強く押し当てられている。  がたん、と音を立てて行灯(あんどん)が落ち、揺らめいた火が消えた。  悲鳴を上げる隙もなく、突然のことに心臓が早鐘(はやがね)を打つ。 (なに……!?)  得体の知れない何者かの腕を引き剥がそうと試みるが、いくらもがいても一切敵わない。  ただ、体格や筋張った腕から男であろうことは推測できた。 (誰なの!?)  無意識に止めていた呼吸を再開する。 「う……」  その瞬間、鼻を抜けるツンとした薬品のにおい。  吸っちゃだめだ、と思った頃にはもう手遅れだった。  酩酊感(めいていかん)に襲われ霞んだ視界がぐらりと傾き、春蘭はやむなく意識を手放す。  崩れ落ちるその肩を支えると、男は軽々と横抱きにして歩き出した。      ◇ 「ん……?」  目を覚ました春蘭は気分の悪さに顔をしかめた。  嗅がされた薬品のにおいが未だ鼻の奥に残っているような気がする。  どこかに寝かされているようだ。  この硬い質感は床だろう。衣が薄いせいか余計に身体が痛む。 (わ、たし……)  はっきりとしない意識の中、己の身に起きたことを思い出し、はっと慌てて上体を起こした。  急に動いたせいか、薬品のせいか、ぐらりと目の前がたわむ。  目眩のせいで再び倒れそうになったが、寸前で何とかこらえた。かぶりを振って座り直す。  そのとき、口を覆うように巻かれた布に気がついた。首を振ろうが傾けようが外れる気配はない。  ずき、と軽い頭痛を覚え、咄嗟に頭を押さえようとしたものの腕が動かなかった。 (何これ……?)  困惑したまま手首を見やれば細い縄で縛られていた。  身体に感覚が戻ってくると、擦れるような痛みを感じる。    立ち上がろうと動いたとき、足首に走った鈍痛に顔を歪めた。両足まで縛られているのだ。  まるで連行される罪人のように、両手足を拘束されている。 (どういう────)
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