ある小説家の苦悩

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 アリサは編集者とのテレビ会議を終えると、AI研究者の友人ノアからメールが届いていることに気がついた。ノアの口癖は「AIとは適切な距離をとるべきだ」だった。そんなことをする必要はないのに。便利なものは何も考えずに使えばいい。  ノアからのメールの内容は「アリサ、最近の君の小説は面白くない。文章は素晴らしいが、アイデアに斬新さがない。昔の君は違ったのに残念だ」というものだった。  昔の私は斬新なアイデアを出していた。そう書いてある。過去の自分がどのようなアイデアを創作したか、すっかり忘れてしまった。「過去のアイデアノートを検索」とAIに指示する。スクリーンに映し出されたのは、ボロボロになった一冊のノートだった。  中身を読むと、「これが斬新なアイデアか?」と思うものばかりだった。今ではテンプレになった話ばかりだ。待って。今ではテンプレ……? あくまでもテンプレだ。当時は斬新だったのかもしれない。アリサは深々とイスにもたれかかる。
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