第8話 この子を守りたい(2)

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第8話 この子を守りたい(2)

 みゃーん、という子猫の声に、少女の意識は戻った。  少女はこの世界が偽りの世界であることに気づいた。  自分を虐げる人々の前で、ずっと言いなりになっているのは、ある意味楽だった。  主張をする必要のない『雑草』でいるのは、楽だった。  この世界を作ったのは、わたし。  でも、もうわたしは下を向かない。  ビアンカは、容赦無く子猫の首を引っ張っていた。  子猫が泣くような悲鳴を上げる。   「……こんなことは許せない」  少女は震える右手を上げた。 「わたしは、認めない」  少女の右手が、ビアンカの手首を掴んだ。 「だめと言えないなら、認めているのと、同じだわ。だから、今度こそ言う」  少女はぎゅっと唇を噛み締めると、力いっぱい、ビアンカの手を振り払った。 「やめなさい、ビアンカ!!!」  少女の言葉と行動に、ビアンカも激怒した。 「『雑草』のくせに、何を言っているの? あんたの言葉など、誰が聞くと思っているの? 自分が変われると思っているの? いつもいつも、黙って、下を向いているだけなのに」 「雑草でも構わない。たとえ人に踏みつけられる『雑草』だって、わたしは自分をもっと好きになるわ。『雑草』だって、精一杯生きているんだから! この子猫だって同じなのよ!!」  少女が頭を激しく振ると、真っ白な、色味のない髪が宙に巻き上がった。  そして、現れた空色の目で、ビアンカとニニスを、正面から見据えた。 「この子を傷つけるのをやめなさい!」  パーン、とまるで鏡かガラスが割れたような音が周囲に響いた。  その瞬間、ぜいたくな屋敷も、ニニスも、ビアンカも、煙のように消えていった。  眩しいくらいの光が溢れ、少女はもはや目を開けることもできない。  それでも少女はしっかりと子猫を抱えて体を丸め、まるで嵐のような強風から、腕の中の小さな生き物を守ろうとした。  誰かが、少女に語りかけていた。 『そなたは変われる。さあ、言ってごらん。そなたは、誰だ? そなたの名前は?』  少女は答える。  わたしは、『雑草』。  いいえ、違う、わたしは、わたくしはーー。 「わたくしはベルローズ。『美しい薔薇(バラ)』という名前の、エルトリア公国の公女」  その瞬間、一際強い風が吹き、ベルローズの体を吹き飛ばした。
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