第2話 わたしは『雑草』(2) 

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第2話 わたしは『雑草』(2) 

 ビアンカの部屋を出た少女には、長い1日が待っていた。  家政婦長に命じられたのは、屋敷の女主人である、ニニスの部屋の掃除だった。  ニニスは少女の父の後妻であり、義母に当たるが、少女は『お義母様』と呼ぶのを許されていなかった。  『奥様』と呼ぶように命じられている。  ニニスの娘であるビアンカも義妹であるが、『お嬢様』と呼ばなければならない。  それからの数時間、少女はただひたすらに言い続けた。 「はい、奥様」 「申し訳ございません、奥様」  それだけが、彼女に許された言葉だった。  ニニスの部屋には、高価で繊細な飾り物が多い。  ニニスが監視する中、少しでも音を立てたり、不必要に部屋の装飾品に触れると、少女はニニスの持つ扇で体を叩かれたり、床に突き飛ばされたりする。 (余計なところを触らないように……) (触る時は、丁寧に……汚さないように……) (間違っても、壊したりしないようにしなくちゃ) (そして同じ場所に戻すのよ。絶対間違っちゃいけないわ)  そんなことを思いながらする作業は、少女には果てしないように思われた。   ようやく、ニニスの部屋が終わり、長い廊下の掃除に取りかかる。  そして、そんな長い午後は、頭の上から浴びせられたバケツの水で終わった。 「お疲れ様、『雑草』。その水がこぼれたところをちゃんと拭いておきなさい。そうしたら今日の仕事は終わりにしていいわよ」  少女が顔を上げると、そこには、ストロベリーブロンドを揺らすビアンカがメイドを従えて立っていた。 「わたしはこれからお夕食に行くのよ」  ビアンカは愛らしく首を傾けると言った。 「あんたの食事、残っているといいわねえ……」
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