マンション

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「旨いなこの味噌煮込み」 門脇君は料理を褒めてくれた。 「自信があるのはこれくらいで、他はあまりレパートリーがない」 「一人暮らしだとわざわざ自分の為だけには作らないな」 「そうだね。食べに行った方が楽だし、片づけもしなくて済むから」 なんかダメ女子感をさらけ出している気分だった。 「救助してくれたときに、私だって分かってたの?門脇君はゴーグルとかヘルメット姿だったし、全く誰だか分からなかった」 「いや、気が付いてなかった。救助している時は気が張っているから、集中して他の事は考えないようにしている」 わぁ、すごい。仕事真面目に頑張ってるんだ。人の命がかかってるもんね。 「……ありがとう」 「どういたしまして」 その後、門脇君はご飯を三杯食べた。 「あのさ、明里、伊藤さん」 「ん?明里でいいよ」 「今日のあれなんだけど。救助動画。一応確認した方がいい」 「ああ。うん。そうだね。わかってるんだけど、何となく勢いでOK出したんだよね」 「彼氏だっけ、元彼氏、山下さん?かなり感じ悪い映像になってる。なかなかの最低男っぷりだぞ。もし、今後あの人とまだ何か接触があるようならチェックした方がいい。彼が辛い立場に立たされる可能性があるからな」 「ある程度配慮はしてもらえると思っているけど?」 「編集するの、古田さんだからな……」 古田さんがどういう人なのか知らないけど、悪意ある動画に仕上げるのだろうか。 「多分、彼は自分がどういう風に振舞っていたか分かってないと思う。だからそれは動画を観て彼が反省すればいい。私が海に飛び込んだことは、無駄だったと言っているから、それも確認すればいいと思う。けれど、一応動画ができたらアップする前に一度観させて欲しいかな」 「分かった。持って帰るから、ここは切り取れとかの指示があれば言ってくれる?」 「うん。そうしてもらえると有難い」 「あ、それと、俺高校生のとき、明里にふられたよな。あのときの恨み忘れてないから」 「えっ……」 門脇君はニヤリと笑うと立ち上がった。 いや、ちょっと待って。 「ごちそうさまでした。それじゃ」 「いや、ちょっと……」 彼は一応自分の食べた食器を流しまで運んだ。 そしてドアから出て行ってしまった。 「恨み……って……」 いや、待って。聞き捨てならない。 私は急いで彼の後を追いかけた。 「門脇君!ちょっと待って」 何だ?というそぶりで彼は振り返る。 「ちょ、ここじゃなんだし。も一回家に来てくれる」 無理やり彼の腕を引っ張って、強引に部屋に連れ込んだ。 「これ、男女逆だったら犯罪な」 「そんな事はどうでもいいから……ちょっと話をしましょう」 「悪い。無理」 どういう意味なの? 何で話を聞いてくれないの。 「いや、それはちょっと大人げなくない?」 「なんで俺が、明里の話を聞かなければならない?」 「誤解があるようだから、ちゃんと話し合いたいと思うの」 もう、何が何だか分からないけど。とにかく睨んで目力で引き止める。 「話を聞かないのは、明里だった。理由もなく俺らの三日をすっぱり終わらせたよな?受験があるから付き合えないとか、そんな理由で納得できたと思ってるの?」 「それちょっとおかしい。しかも十年も前の話でしょう。いくら何でも根に持ち過ぎだし、しかも私まったく悪くないし」 「ほう……」 彼はまた意味深い笑いを浮かべると、無理やり掴んでいた私の手を振り払った。 「悪いけど、話を聞いてほしかったら、俺がそういう気になるまで頑張れ」 彼はそう言って、またドアを開けて出て行ってしまった。 いったいどういう事なの?恨まれる?私がなんで恨まれなきゃならないのよ。
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