過去と現在

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話をしようかと門脇君は言った。 私は彼の隣に少し距離をとって座りなおした。 「高校の時、校門で呼び止められた。彼女に『私の彼を取らないで』って言われた」 「茉奈の話?」 私は頷いた。 茉奈さんは高校の時の後輩の女の子だ。 私は直接知り合いではなかったが、当時門脇君と付き合っていると噂されていたテニス部の女の子だった。 「その時、私は知ってたの。門脇君がテニス部の後輩と付き合ってるって。学校で噂になってたし、知ってた。なのにすっかり忘れて北海道であんな事になってしまって」 私は門脇君が初めての人だった。 北海道でお互い体を重ねる事になった。いろんな事情が絡み合っていたが、その時は納得しお互いの熱に浮かされた状態でそうなった。 まだ自分を確立できていない十七歳のぎこちない夜だった。 「ああ。そうだろうと思った」 彼は先を促す。 「茉奈さんに私は門脇君とは何でもない。貴方の彼を取らないって言った。その後、カフェで門脇君が告白してきた。だから振った。でも、受験だから付き合えないっていう理由で振った」 「そうだったな」 彼女がいるんだから付き合えるわけないでしょう、とは言わず、受験を理由にした。 「私のせいで彼女とぎくしゃくして欲しくはなかったし、面倒ごとに巻き込まれたくなかったし、人の彼氏を奪いたいとも思わなかった」 「それは、明里が一人で考えた結論だし、身勝手だと思う。ちゃんと思っていたことを俺に話すべきだった」 「……ごめんなさい」 「茉奈とは付き合ってない。彼女がなんで俺の事を彼氏だって言ったのかは知らないけど、少なくとも俺はあの子に告白されて振ったから、当時彼女はいなかった」 門脇君は私が話す内容を知っていたかのように冷静だった。 そして門脇君の話は私も心の中で思っていた事だった。 「うん……何ヶ月かたってね。もしかしてそうなのかもって思ったけど、それこそ夏だったし、受験だったでしょう?門脇君は夏には申し込みで秋には受験だった。もう今更感はあったし、その後、私の受験は三月までだったから」 「そうだな。タイミングが悪かったのかもしれない」 青みを帯びた濃いグレーのシャツ。 力が抜けたように門脇君の肩が少し下がった。 「例え上手くいってたとしても、広島の呉と北海道。すぐに遠距離になっちゃうよね。お互い新しい人生が始まる分岐する時期でもあった」 私たちの青春はあの北海道での三日間で終わった。 そう思っている。 「俺は、トラウマレベルで苦い記憶だぞ。やっと明里を自分の彼女にできるんだって、すげぇ嬉しかった。すごく好きだった」 「ありがとう。私もすごく好きだった」 「なんだよ、それ……」 門脇君が私をぐっと自分のもとに引き寄せる。 私はそのまま彼の鎖骨の部分に顔を埋めた。 二人とも口をきかず、ただ上下する胸の動きと、少し荒くなった呼吸音だけが部屋に響いた。
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