過去と現在

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「俺……自制が効かなくなりそうだから、悪い」 門脇君はそう言って、私の肩をそっと押し距離をとった。 「あ、その……ごめん」 「まず、十代の頃の俺はまだ女の子を知らなかった。がっついたなという認識はある。今は、さすがに理性的に振る舞える……と思う」 うん、と頷く。 「ちゃんと、もう一度、俺とやり直せるかどうか考えて」 やり直したいわけじゃない。 始めたいと思った。 大人になった門脇君はとても魅力的だ。 私はあまり恋愛に深く入り込まないタイプだと思っていたし、男性を真剣に愛する事はないと思っていた。 「門脇君のことになると、必死になる。いつもはもっと冷静で、落ち着いて行動できる。けど、門脇君の前でだけ、失敗するし判断を間違えて恥ずかしい行動に出てしまって……どうしようもなくなる」 「だから?」 質問に答えろという視線。 「もう……好きになってる」 門脇君は「うーー」とうなって頭をのけぞらせた。 後ろのソファーに背中を預けて、骨組みのガッチリした背中をのばす。 「もう一回、始めよう」 「……うん」 十年という長い年月が、二人を大人にしたはずなのに、子どもみたいにドキドキした。 顔も赤くなってしまって伏し目がちになってしまう。 「大人女子を演出したいんだけど、できそうにない」 「……一緒だ」 門脇君はそう言うと、私を抱き寄せた。 「いい?」 いいよ……という言葉は門脇君の唇に呑み込まれた。 あの頃よりずっと男らしく、大人になった彼は、私を深い深い海の底まで連れていった。               完
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