14. 死に戻り陛下と転生悪女の結末(エピローグ)

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14. 死に戻り陛下と転生悪女の結末(エピローグ)

 その後、騎士団長やクラウスによる厳しい尋問により、狩猟大会の事件と、舞踏会での事件の黒幕は両方とも隣国の王家によるものだったことが判明した。 「俺が政略結婚の打診を突っぱねて、あなたを正妃にしたせいで、かの国の目論見が崩れ、あなたを亡き者にして後釜に収まろうとしたようだ。向こうは歴史はあるが、武力の面では弱小国家だからな。こちらの軍事力を取り込みたかったんだろう。国王だけでなく、王女も乗り気だったらしい」 「そんなことになってたんですか……」  クラウスの説明を聞いて、ルイーゼは驚愕する。  小説ではルイーゼのほうが悪女で、アンネリエはルイーゼの嫌がらせに健気に耐え続ける、儚げ美少女のヒロインだったはずなのに。立場が変わるだけで、こんなにもキャラ変してしまうとは……。 「もうあの国は潰すことにする」  クラウスが冷たく言い放った言葉に、ルイーゼはぎょっとした。 「えっ、もっと平和的にいきませんか? 結果として私は無事なんですし、もう少し大目に見ても……」 「あなたが大目に見れても、俺は断じて許すことはできない。俺の妃に手を出したらどうなるか、分からせたほうがいい」  俺の妃、という響きに今更ながら照れつつ、ルイーゼはふと不思議に思った。 (小説のクラウスはこんなに過激なことを言う人だったっけ? なんだか……) 「別人みたい……」  ルイーゼがぽつりとこぼした言葉に、クラウスが反応した。 「……別人なのは、あなたもだろう? あなたも……死ぬ前の記憶があるんじゃないのか?」  思いもよらないクラウスの返事に、ルイーゼは大きな瞳をぱちぱちと瞬いた。 「えっ、まさか陛下も転生者なんですか!? なんだ、私一人だけが生まれ変わったんじゃなかったんですね! そっか、だから原作の陛下とだいぶ雰囲気が違ったんだわ」  ルイーゼが安堵したように溜め息をつくと、今度はクラウスが何度か瞬きをして眉を寄せた。 「……転生? 生まれ変わり?」 「はい……え? 今の、そういう話じゃないんですか?」  首を傾げるルイーゼに、クラウスが事実を告げる。 「いや、俺は生まれ変わったのではない。死後に時間が巻き戻ったんだ」 「えええ!? 陛下はやり直しのほうだったんですか!?」 「ああ。……あなたに殺された後にな」 「そ、その節はご愁傷様でしたというか……って、あれ私の仕業じゃないですからね! 原作のルイーゼがやったことですから」 「……さっきから転生とか原作とか、一体どういうことなのか教えてもらえるか?」  腕組みをして詰め寄るクラウスに、ルイーゼは順を追って説明した。 「──なるほど……。ここはあなたが読んだ小説とそっくりな世界で、あなたは本当に俺を殺したルイーゼとは別人だったんだな」 「はい、そうです」  ここが小説の世界だなんて信じてもらえるか心配だったが、自分も普通ではあり得ない体験をしたせいか、クラウスは疑うことなく信じてくれた。そのことにホッとするルイーゼだったが、続くクラウスの言葉に腰を抜かしそうになった。 「俺は死に戻った後、最初はあなたを殺そうとしていたんだ」 「ええっ!?」  たしかに、婚約破棄の申し出を頑なに拒まれたり、アンネリエではなくルイーゼが正妃になったりと、原作のストーリーとだいぶ展開が異なることが不思議だったが、まさか命を狙われていたとは思わなかった。 「……だが、やり直しのこの人生で、必ずあなたに復讐を遂げようと思っていたのに──俺は、あなたに惹かれてしまった」 「え……?」 「前の人生でのルイーゼとは何もかも違うあなたが気になって仕方なかった。目が離せなかった。俺を殺した憎むべき相手なのに何故なのかと、ずいぶん悩まされた」  クラウスがふっと微笑む。 「陛下が、私のことを……? アンネリエ王女のことはいいんですか?」 「……あなたは、何故そうやって俺と隣国の王女を結ばせようとするんだ?」  クラウスが不快そうに顔をしかめる。 「だって、それが原作の流れなので……。私に殺される前はお互いに愛し合っていたんでしょう?」 「向こうのことは知らないが、俺は王女のことは何とも思っていなかった。ただ、礼儀を持って接していただけだ」 「ええっ!?」  ルイーゼが本日何度目かの驚きの声を上げる。 (原作でのクラウスの描写が素っ気ないとは思っていたけど、照れ隠しだと思ってたのに……。まさか素のままの態度だったなんて……)  自分が行間から読み取っていた……と思っていた恋愛感情は、ただの幻だったようだ。 「だから王女のことは放っておけ。俺の妃は、あなただけだ」 「で、でも、こんな私に王妃なんて務まるとは……」 「俺は、あなたでなければ駄目なんだ。……俺の妃でいるのは嫌か?」  急に傷付いたような表情になるクラウスを見て、ルイーゼは胸がきゅっと痛むのを感じた。どうやら最初の思惑とはだいぶ違った感情が芽生えてしまったらしい。 「──今は、嫌ではないです」 「……本当に?」 「はい、いつの間にか居心地がよくなってしまったようです」 「俺もだ。きっと俺は、あなたに出会うために死に戻ったのかもしれないな」 「……では私も、陛下に出会うために転生したのかもしれませんね」  二人で顔を見合わせて笑い合うと、クラウスが一歩近づき、ルイーゼの頬を優しく撫でた。 「二度目の人生は、すべてあなたに捧げよう」 「陛下……」 「……クラウスと、名前で呼んでくれないか」  今にも鼻先が触れ合いそうなほど近い距離で、クラウスが囁く。熱っぽく揺れる瞳の奥に、恥ずかしそうに顔を赤らめるルイーゼの姿が映る。 「ク、クラウス……」 「ルイーゼ……」  一言、名前を呼んだまま固まってしまったルイーゼの唇に、クラウスの唇が重なる。愛おしげに何度も触れるその口づけは、復讐とはかけ離れた優しくて温かな口づけだった。  ──それから数ヶ月後。隣国を攻め落として属国とし、先王の喪が明けてからすぐのこと。  王都では国王と王妃の盛大な結婚式が行われた。若く逞しく、威厳のある国王と、明るく快活で愛嬌のある王妃の結婚は国中から祝福された。  国王は挙式から披露宴までずっと幸せそうに王妃を見つめ、王妃は披露宴での余興で白馬に乗って登場し、庭園の生垣を軽々と飛び越えて招待客の度肝を抜いたという──。
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