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3. ねじ曲がるストーリー
クラウスの一方的な挨拶を最後に、ルイーゼは庭園から送り出されてしまった。
そのまま流れるように馬車へと乗せられたルイーゼは、屋敷への道中、首を捻って考えていた。
(婚約破棄を断られた……?)
絶対にいけると思っていたのに、失敗してしまった。もし渋られてもゴリ押しで認めてもらうつもりだったのが、逆にこちらが押し切られてしまった。
(どうして……? 今なら特に切羽詰まった状況じゃないし、私以外にも高位貴族の適齢期の令嬢はいるから許してもらえると思ったんだけど……)
……まさか、実はクラウスはルイーゼに気があったのだろうか。あまりのショックに一瞬そんなことを考えてしまったが、すぐにそんな考えは打ち消した。
(ないない。さっきは少しの時間しか会えなかったけれど、とても私に恋をしているような雰囲気じゃなかったもの)
たしかに、一見紳士的な振る舞いだったが、よくよく思い返すとルイーゼに向ける眼差しには親愛の情というよりも、何か獲物を狙う猛禽類のような鋭さが感じられた。
醸し出す雰囲気も以前のような若者らしさがあまり感じられず、急に年をとったような、あるいは人格が入れ替わってしまったような違和感があった。
(もしかして、クラウスも異世界転生した別人になっちゃったとか? でも、それなら婚約破棄を断るなんてことしないはずだし……。いや、小説を読んでいない可能性もあるのか……)
いろいろと考えてみるが、答えは出ない。とりあえず、婚約破棄ができるまではクラウスに付き合う必要があるので、その間に注意深く観察してみることを決めた。
「よし、今日はダメだったけど、また次の機会に婚約破棄をお願いしてみよう!」
そうして、クラウスに会うたびにそれとなく婚約破棄を打診するルイーゼだったが、毎回うまく躱されてしまい……。
そんなことを繰り返していたある日のこと。フレンツェル侯爵家に国王崩御の報せが入った。
(まずいまずいまずい。もう国王陛下が亡くなられるなんて……! 完全に国王崩御のタイミングを勘違いしてた……!)
王城に呼び出されたルイーゼは、喪に服していることを示す黒いドレスに身を包み、応接室の椅子に腰掛け、わなわなと震えていた。
「やあ、ルイーゼ嬢」
分厚いドアが開いて、クラウスが入ってくる。
「クラウス殿下……。この度は本当に急なことで……」
状況が状況なので、ひとまずお辞儀をしてお悔やみの言葉を伝えようとしたのだが、クラウスがルイーゼの言葉をさえぎった。
「ルイーゼ嬢、俺が次の国王に即位することになった。……そして、俺はあなたを正妃に迎える」
クラウスがにこりともせずに、そう告げる。
「ちょっと待ってください……。どうして……どうして私が正妃なんですか!?」
「あなたは俺の婚約者だろう? 何もおかしいことはない」
「そ、それはそうなんですけど……。でも、隣国のアンネリエ王女を正妃に迎えたほうが、この国や殿下のためになると思います!」
「そんなことはどうだっていいから、気にするな。俺にとってはあなた一人を正妃にするほうが大切なんだ」
他人が聞いたら熱烈な愛の告白だと思われてしまいそうなセリフだが、それを向けられたルイーゼはなぜか背中にぞくりと悪寒が走った。
「挙式は喪が明けてからになるが、あなたにはさっそく王城に移ってもらいたい。侯爵家に人手をやるので、急ぎ準備をして明日からはこちらで暮らすように。ではまた」
クラウスはまたもや一方的に話をして、さっさと部屋を出て行ってしまった。
だだっ広い応接室にひとり残されたルイーゼは、呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。
「……どういう展開なの、これ……」
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