3日目

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「いけ…にえ……?」 「そう。生きたまま神に僕らを捧げて神の赦しを得る……生贄の儀式。それが、君がこれからすること」 「そんな……なんで」 雪はただ淡々と真実を告げる。 「もう洞窟の入口は塞がれていることだろうね。生贄を逃さないために。2日間も贄たちを歩かせているのはそれが理由だと思う」 「……私、ここで死ぬしかないの?」 「うん、残念だけど……僕にはどうすることもできない……ごめん」 「なんで教えてくれなかったの……」 行き場のない想いは全て管理者を騙った雪の元へ向かう。 「……つなぐのがルールなんだ。10年間ここを霊体として守ったら、次の10年は次の贄に託す。それをずうっと繰り返してきた……人々が命を創るという禁忌を犯してからずっと」 切なく儚げな少年は言った。 ……この表情…既視感がある。 なぜか雪を見たことがある気がする。 ……いや、ずっと前から気づいてた。 知らないフリをしてただけだったのかもしれない。 ある日突然いなくなったよく遊んでくれた近所のお兄さん。 その人の名前は確か 「……雪兄ちゃん?」 「!?……なんで……」 「……やっぱりそうだったんだ」 私の手を引いてよく一緒に遊んだりお話してくれたりした人。 13と5というかなりの年の差だったはずが今や13と15……。 あまり変わらない上に私が年上になってしまった。 「……生贄を回避する方法はないの?」 「ここで儀式をしなければ生贄にはならない。晴は餓死するし外の世界も自然災害で大変なことになるだろうがな」 つまり私が贄になった方が犠牲が少ない……ということか。 「そう、それに……僕の体はもう持たない……」 「……どういうこと?」 「僕は10年だけの幽体だから……もうすぐその10年が終わる……だからもうすぐ消える」 「そんな……!?せっかく会えたのに……!?」 洞窟の反響なんて気にならない程に私は叫ぶ。 その声が神に聞こえないことなど分かっていたというのに。 「晴……お願い」 「……なに?」 「僕が消える前に儀式を成功させないと世界が崩壊する……だから、儀式を成功させて……お願い……」 ……そうだ……私がここで儀式をやめれば今まで生贄になった者たちの命を冒涜する行為になりかねない。 私は……私はやらなきゃ。 「……どうしたらいいの?何をしたらこの先の祠に行ける?」 祠までの道には巨大な文明文様の扉が待ち構えていた。 「今までの伝説を思い返してご覧?」 今までの伝説…? 道指し示し石に従え…… あるべきところに力を灯せ…… 火より造られし中枢にて祈れ…… 力を灯す……?灯すって普通火に使う言葉じゃない?じゃあ、あるべきところに火を灯す? あるべきところ……伝説が書いてる石碑のこと!?確かに火を灯すようなデザインをしていた。 火より造られし中枢……灯せそうな石碑は3つ……その真ん中の位置……。 今居る位置的に……丁度祠……? よく見ると最後の伝説の石碑には火を灯せる場所がない。 つまり……火を灯してからまたここに戻ってくるってこと? 歴史の石碑に書いてある『戻れ』ってそういうこと? まだ知らぬ物語……は、私自身が生贄になる新たなストーリーって意味かな……。 ……戻れば1日以上はかかる。 4日分の食料とランタンはそれが理由か。 そして3本のマッチは石碑に火を灯すため……。 抜かりないこと……。 それでも私はいかなければならない。 授かりし未来を繋いでいくために。
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