1日目

1/3
前へ
/17ページ
次へ

1日目

ひた……ひた…… 雨ならではの音がする。 水の滴る音。 水溜りに雨が跳ねる音。 土を踏み鳴らす音。 心地の悪い湿気を感じながら私は儀式の洞窟へ足を踏み入れた。 洞窟の中は暗いからランタンなるものを手に持つ。 10年に1度……空のはたらきを正常に動かすために行われる儀式。 雨が常に振り続けるわけでもなく、永遠に晴れが続くわけでもない。 異常気象を防ぐための儀式だ。 私のいる村で行われている。 洞窟付近までは付き人がいてくれるが……洞窟内からは一人きりで進まなければならない。 そして洞窟を抜けた先にある祠の中で祈りを捧げる。 祠までは少なくとも2日はかかる。 ランタンや食料はちゃんと往復で4日分ある上に予備としてマッチを3本渡されているため準備は万全だが……。 この雨の中だと、純白の儀式専用着が茶色に汚れてしまう。 しかも湿気が尋常じゃないので息がしづらい。 「一人きりで儀式のために洞窟を抜ける……洞窟って暗いし苦手……」 私の声は反響する。 この反響が私を独りだと知らしめる。 そんなことを考えながら一歩、また一歩と地を踏み鳴らす。 「だよね〜!僕もそう思う!!」 「そうよね〜……え!?」 私以外立入禁止の儀式の洞窟に誰かがいるわけがない……。 空耳よねきっと……。 さっさと終わらせて帰らないと……。 「ちょっと待って!置いてかないでよ!!」 「…え?」 嘘……本当に誰かいるの? 試しに後ろを振り向く。 するとそこには私と同じくらいの背丈の少年がいた。 「ここは……儀式の子以外立入禁止のはずだけど……なんで君はここにいるの?」 「ん?あ〜、えっと……僕はここの管理人なんだ!」  管理人にしては年齢が若すぎる気がする……。 そういうものなのか? 「この場所に管理人なんていたんだ……」 「うん、まぁ……そうだね」 なんか怪しい……。 挙動が少し不審だ。 「な、何?何か僕の顔についてる?」 「別に、何も?」 「そっか……で、ここにいるってことは君は儀式の子だよね……?」 「そうだけど、それが何?」 「ついて行ってみてもいい?」 少年は終始ほほえみを絶やさない。 それがどこか不気味であり、少し安らぐようにも思う。 不思議な感覚だ。 「……別にいいけど」 「ありがとう!」 ……私と違って素直な子なのかな? 少年は見た目年齢に見合ってないくらいどこか幼く見える。 「ねぇ、君の名前教えてくれないかな?」 「……私の名前?」 「うん!」 「……(ハル)。君は?」  「晴…?………いい名前だね!僕は(ゆき)。よろしくね!」 出会って早々呼び捨てということに突っ込みたくなるが、飲み込んだ。 呼び方なんてどうだっていい。 「……君はいくつ?」 「僕?僕は……えっと……13歳かな?」 「なんで疑問形なの?」 「あんまり覚えてなくって」 その年齢なら覚えててもいいと思うんだが。 「そういう君の年齢は?」 「え、あ……15歳」 「僕より年上なんだね!」 「そうみたいだね」 こうしている間にも洞窟の奥へ歩みを進める。 1人よりは悪くない。 洞窟は音が反響するから少し怖いのだが、誰かといると少し安心感を覚えるのだ。 「奥の祠に行きたいんだよね?」 「うん」 「道わかるの?」 「儀式の子なんだから、それくらい調べてるよ」 「なるほどね!」 実にこの洞窟の雰囲気に合わない少年である。 13歳でこの元気の良さと素直さ。 実に尊敬に値するものだ。 「じゃあ、さっさと行っちゃおう!!」 雪は颯爽と走り出す。 雪の姿だけをみればまるで草原を駆け回っているようだ。 私はその背中を追いかける。 ついていく必要はないはずだったが……やっぱり人間である以上孤独は恐ろしいのだろう。 私の顕在意識はそう解釈するのだった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加