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途端に全身に緊張が走る。
伊織くんは何を言うつもりだろう。
「梨沙……その……俺は梨沙のことが好きだ。俺と付き合ってほしい」
バサバサバサ!
近くの木から、鳥が飛び出した。
その鳥は空高く飛び上がると、虹の向こうへと消えていった。
鳥を見ている場合じゃない!
私、今、告白された。
返事をしなきゃ……
「あ、あ、あの……私も伊織くんのことが好きです。よろしくお願いします」
言えた!
ついに言えた!
伊織くんは、私の返事にほっとした顔を見せ、そしてこうつぶやいた。
「よかった……梨沙に先に言われるんじゃないかと思って焦ったよ」
さっき、私が告白しようとしていたこと、伊織くんにはお見通しだったんだ。
伊織くんらしいな。
バサバサバサ!
また鳥が一羽、飛び立っていった。
「雨が長かったからな。雨上がりで、鳥たちもやっと自由になったな」
「ふふふ。そうね。そして、自由になったのは鳥たちだけじゃないよ」
「?」
「私ね、雨の日、実は好きだったんだ。だってね、雨の日って伊織くん、ゆっくり歩いてくれるから」
「……あはは……バレてたか」
「でもね、これからは晴れの日も楽しみになったよ。ねぇ、伊織くん。雨は上がったんだからさ、傘をしまおうよ」
「そうだな」
伊織くんは、左手に持っていた傘をカバンにしまった。
私は、右手に持っていた傘をカバンにしまった。
「雨が上がると自由になるのは鳥だけじゃないの。雨が上がれば、傘を持っていた手も自由になるの」
私はそっと、伊織くんの手を握る。
「確かに」
伊織くんは左手で、私の右手を包み込む。
私達の顔は真っ赤になったけど、それを隠す傘はもうない。
雨上がりの澄んだ空と、そこにかかる虹の下を、私達は手を繋いだまま歩いていった。
< 了 >
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