今は少し虹を待とう

12/15

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
 今日は居残り練習ができない日なので、選抜組かどうかに関係なく、定時で練習が終わった。  雨はまだ降っている。  私と伊織くんは、いつものように傘を差して歩き始める。  なんとなく、伊織くんの様子がぎこちない気がした。  嫌な予感がする。 ──俺、早乙女先輩と付き合うことになったから、梨沙とは一緒に帰れない。  そんなことを言われるのだろうか?  だんだん心配になってくる。  伊織くんは私の顔を見て言った。 「梨沙、どうした? いつもと様子が違うみたいだけど?」 「え? そんなことないよ」  ぎこちないのは私の方だった。  だって……  今日は伊織くんに私の気持ちを伝えるのだから……  どういう風に話を切り出そうか、頭の中でいろいろ考えてしまう。 「梨沙、今日はおとなしいな」 「え? あ、うん。そうかも」  いつの間にか私は黙ってしまっていた。 「雨、止んだな」 「ホントだ。気が付かなかった」  私達が向かっている東の空には、大きな虹がかかっていた。 「虹、きれい……」  思わずつぶやいてしまう。 「あぁ、めっちゃ大きいな。虹、久しぶりに見たよ」  そう言って、伊織くんは傘を畳もうとする。 「あ、あのね、伊織くんが言っていた、左利きの傘の話、分かったよ」 「お! 分かったか」 「でね、伊織くんにプレゼントがあるの」  私はカバンの中からそれを取り出した。 「はい。これが答え」 「なんだなんだ? 開けてもいいか?」 「うん」  伊織くんは包装紙を開く。  私は伊織くんに折り畳み傘を贈った。 「傘?」 「うん。一回開いて、そして、畳んでみて」  伊織くんは、傘を開いた後、折り畳む。 「そっか! この傘、左利き用なのか!」 「そうなの」  傘を留める小さなベルトみたいなのが、反対に巻いても留められるようになっている。 「意外と便利だな!」  伊織くんの顔がぱっと明るくなった。 「よかった。喜んでもらえて」  辺りも急に明るくなった。  雨は上がり、強い日差しが私達を照りつけ始める。  よし、今だ!  心臓が高鳴る。破裂しそう…… 「あのね、私、伊織くんに言いたいことがあるの……」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加