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今日は居残り練習ができない日なので、選抜組かどうかに関係なく、定時で練習が終わった。
雨はまだ降っている。
私と伊織くんは、いつものように傘を差して歩き始める。
なんとなく、伊織くんの様子がぎこちない気がした。
嫌な予感がする。
──俺、早乙女先輩と付き合うことになったから、梨沙とは一緒に帰れない。
そんなことを言われるのだろうか?
だんだん心配になってくる。
伊織くんは私の顔を見て言った。
「梨沙、どうした? いつもと様子が違うみたいだけど?」
「え? そんなことないよ」
ぎこちないのは私の方だった。
だって……
今日は伊織くんに私の気持ちを伝えるのだから……
どういう風に話を切り出そうか、頭の中でいろいろ考えてしまう。
「梨沙、今日はおとなしいな」
「え? あ、うん。そうかも」
いつの間にか私は黙ってしまっていた。
「雨、止んだな」
「ホントだ。気が付かなかった」
私達が向かっている東の空には、大きな虹がかかっていた。
「虹、きれい……」
思わずつぶやいてしまう。
「あぁ、めっちゃ大きいな。虹、久しぶりに見たよ」
そう言って、伊織くんは傘を畳もうとする。
「あ、あのね、伊織くんが言っていた、左利きの傘の話、分かったよ」
「お! 分かったか」
「でね、伊織くんにプレゼントがあるの」
私はカバンの中からそれを取り出した。
「はい。これが答え」
「なんだなんだ? 開けてもいいか?」
「うん」
伊織くんは包装紙を開く。
私は伊織くんに折り畳み傘を贈った。
「傘?」
「うん。一回開いて、そして、畳んでみて」
伊織くんは、傘を開いた後、折り畳む。
「そっか! この傘、左利き用なのか!」
「そうなの」
傘を留める小さなベルトみたいなのが、反対に巻いても留められるようになっている。
「意外と便利だな!」
伊織くんの顔がぱっと明るくなった。
「よかった。喜んでもらえて」
辺りも急に明るくなった。
雨は上がり、強い日差しが私達を照りつけ始める。
よし、今だ!
心臓が高鳴る。破裂しそう……
「あのね、私、伊織くんに言いたいことがあるの……」
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