今は少し虹を待とう

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 部活が終わり、伊織くんと一緒に帰る。  空は暗く、今にも雨が降り出しそう。  そんな泣き出しそうな空とは対照的に、伊織くんは笑顔で話しかけてくる。 「ホルンのテスト、どうだった?」 「……だめだった……音、外した……」 「そっか。でも、それだけでダメとは限らないじゃん」 「いや、たぶん、ダメだと思う……」  雨が降り出した。  伊織くんは素早く傘を差す。 「どうした梨沙。雨、降ってきたぞ。濡れるぞ」  分かってる……  私の髪に、顔に、雨が降り注ぐ。 「おい、梨沙、しっかりしろよ!」  道路も濡れて、どんどん色が変わっていく。  アスファルトからは湿ったホコリの匂いが漂ってくる。  私はそのまま歩き続ける。 「傘、持ってるだろ? どうした?」  伊織くんが近づいてきて傘の中に私を入れた。 「……え? あ、大丈夫。傘、今差すから」  慌てて自分の傘を開く。  ボツボツと傘を叩く雨音が聞こえ始めた。 「つい、ぼーっとしちゃって……」 「大丈夫か? テストのことなら気にするな」 「……うん」  気にするなと言われても……  でも、伊織くんは気を使って言ってくれているんだ。 「顔、濡れてるぞ」  伊織くんはハンカチを差し出してくれる。  顔が濡れているのは雨のせいだけではなかった。 「大丈夫。自分で持っているから」  伊織くんと並んで、ゆっくりと歩いていく。 「梨沙、下ばっかり向いていると、気持ちも暗くなるぞ」 「だって……水たまり踏むの嫌だもん」 「…………」  こうして、雨の一日は終わった。
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