今は少し虹を待とう

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 今日は朝から雨。  部活ではコンクールに出るメンバーの発表がある。  諦めていたけど、もしかしての可能性に賭けている自分がいた。  結果……  私は選ばれなかった……  ちょっとでも期待していた私がなんだか馬鹿馬鹿しく思えた。  一方、伊織くんはトロンボーンでコンクールに出ることが決まった。 「伊織くん、やったじゃん! 選抜だね!」  私は笑顔を作り出して伊織くんを祝福する。 「ありがとな! でも、梨沙と一緒に出たかったけどな」 「そう言ってくれてありがと」  顔で笑って心で泣くとは、まさにこのこと。  これからはコンクール組とそうでない組とに分かれての練習も多くなる。  伊織くんはかっこいいから選抜メンバーと仲良くなっちゃって、もう私なんか相手にされなくなるかも。  そんな不安にも襲われた。  案の定、今日の部活はコンクール組は残って打ち合わせがあるとのことで、私は一人で帰ることになった。  朝から降り続いている雨。  止む気配はない。  傘を広げた。  ぽつぽつぽつぽつ  一人で帰る私に届く雨音。  隣に伊織くんはいない。  話し相手がいないので、雨音に耳を傾けるしかない。  ぽつぽつぽつぽつ  私は歩く。  ぽつぽつぽつぽつ  私は歩く。  今日は一人でよかったのかも。  コンクールに出られない私は塞ぎ込んでいた。  こんな私じゃ笑顔でお話できない。  ぽつぽつぽつぽつ  雨が降れば、世界のすべてが演奏者になる。  傘に雨が当たる音。  草花に雨が当たる音。  屋根に雨が当たる音。  地面に雨が当たる音。  私は歩く。  私の靴も音を奏でている。  コンクールに出られない私は、雨の楽団の一員になっていた。
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