素敵な骨

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 新参護衛の態度が崩れると、クローディアは手を叩いて喜んだ。  人形のように可愛い笑みに、護衛二人の頬も自然と緩んだ……かもしれない。  ちなみにジュレの話ぶりが堅いのは、本人が言うには“使用人ごっこ”と言う事らしい。  初めに城で使用人のお仕着せを貰っていたこともあり、ジュレに関してはクローディアもそのまま馴染んでしまったようだ。 「じゃあクローディア様、クッキーを焼きましょう。砦に差し入れよ」 「やったー! お菓子大好き!」 「クローディアの物ではないのでは」 「分かってるよシャンピー。私はちょっと多めに味見するだもん」  そして無事大量のクッキーが焼けると、彼女は嬉しそうにお茶を用意してたくさん味見をしていた。  夜になり、夕食を終えたクローディアは砦に行く支度をする。  赤い外套を纏った彼女は、同じように頭からすっぽりと黒い外套に身を包んだエクレールと共に馬に乗った。  可愛らしいクローディアの後ろにいる骸骨の姿は、生と死を現わしているようでなかなかに恐怖を誘う。  夜移動するのも、誰にも会わないためだ。 「なんだ、俺はお留守番か」  シャンピーがやや拗ねたように言う。護衛を増やすよう進言したのは彼なのに、いざクローディアの近くの座が取られたとなるとヘソを曲げたようだった。 「あら、一度どちらが強いか手合わせしてみたら?」  ジュレにそうからかわれたが、「また行方不明の骨が出るのは嫌だ」と言ってクローディアらを見送った。 「砦はこっちの方角よ。馬で二十分くらいかしら。砦の人たちは私たちには慣れているから大丈夫よ」 「生きた人間一人、あんな森で寂しくはないのか」 「……ちょっとだけ寂しいかも。でもいいの。お父様は時々贈り物をしてくれるし、お母様はたくさんお手紙をくれるの。砦で会おうって言われるけど、やっぱり死の香りを纏ったまま会うのは気が引けてしまって。ねえエクレールのお話しを聞かせて。死者とお話しするのも楽しいの」 「俺の……多分騎士だったであろう記憶はある。あとは曖昧だな。不思議なものだ。剣技も兵法も忘れていないと言うのに自分に関する情報が抜け落ちている。だが不思議と貴女に会ったのは初めてな気はしない」 「森の中をさ迷っている間にすれ違うこともあったのかしら? ふふっ、その”初めてな気はしない”って台詞を言うとね、ジュレに“口説き文句としては二流”って言われるの。シャンピーもそうだったから」  彼は「確かに」と同意すると笑った。 「あなたには私の護衛だけじゃなくて、シャンピーと一緒に森に侵入するエーノルメ兵を追い払って欲しいの。殺しちゃだめよ。私は死者とお友達になれるけど、増えて欲しいわけじゃないの。脅かして追い返せたらそれで充分だから」 「エーノルメ……」 「あなたもエーノルメ兵だったかもしれないね。少なくとも体はそうだよ。鎧がエーノルメの騎士だったから。そんな人がフィルディの人間に使役されているなんて、嫌?」 「分からない。分からないが貴女に使役されるのは嫌だとは思わないし守りたいと思う」 「よかった。うんと強い恨みを持っていて背中からバッサリ! なんてなったらびっくりだものね。たまにいるしね!」  遠目には月夜の野原を男女二人が一頭の馬で駆け抜けているようにしか見えない。  エクレールが身を隠す外套を風になびかせ馬を走らせると、彼女の言う通り二十分もすれば砦の姿が見えてきた。
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