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「さあ、全員まとめてかかってこい。あの世で体が足りないと後悔させてくれる!」
兵は逃げ、王子は残った。
死体の兵が、一斉に剣を振りかざすのが見えた。
――だめ、殺しちゃだめなの。怪我もだめ。脅かすだけって言ったでしょ。
「……!?」
場違いな声が聞こえた気がして、王子の気が一瞬逸れる。
死体はかざした剣を振り下ろしたが、その威力は最初の一撃とは違い軽かった。
――早くして。逃げた兵が迷子になっちゃう。もう、なんでこの人こんなに強いの! 少しはびっくりしてよ!
気のせいではない。少女のような声が聞こえる。しかもかなり愛らしい。
エルキュール王子は目の前の死体の腕を切り落とし、隣の死体の肩に剣を突き刺すと、その体を押しのけ声のした方を目指した。
――え? こっちに来るの?
そんな声が聞こえたかと思うと、目の前に骨の馬に跨る、これまた骨の騎士が現れた。
そして驚いた表情で王子を見るのは、骨の騎士に抱えられたまだあどけない生きた少女。
「子供か!?」
「うそ……」
彼女は王子の突破を想定していなかったのか、焦ったようにそう呟いた。
すぐさま骨騎士が馬首を巡らし、逃走を図る。
もしかしたらこの死体を操る元凶かもしれないと思った王子は、この機会を逃さなかった。
手の松明を投げつけ、逃走の阻止を謀る。
騎士は振り向き松明を薙ぎ払うと、馬から飛び降りた。
「逃げて!」
馬がそのまま逃走体勢に入る。
「させるか!」
騎士の着地を待たず渾身の一撃を繰り出す。
全力で薙ぎ払われた剣は騎士の頸椎を砕き頭蓋骨を跳ね飛ばした。
衝撃で騎士がよろめき、骨の小気味よい音と共に地面に倒れる。それには目もくれず、馬に向かい剣を投げた。
剣は馬の足を砕き、少女は悲鳴と共に落馬した。
「いたっ……シャンピー!」
恐らく骸骨騎士の名前がそれなのだろうが、王子は転がる骨に構わず少女に一直線に走った。
途中で落ちた剣を拾うと、その切っ先を怯える少女に向ける。
暗がりの中でその容姿の詳細は分からなかったが、こんな森に骨と共にいる少女が普通なわけない。
彼は容赦なく雷鳴のような声で問いかけた。
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