憑いてきた

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「やはりオートリーだろうか」 「その線が濃厚でしょうが、タイミングが気になります。今朝決めたことを彼が知る手筈がありません」 「別の一派か、もしくはヤツの配下が勝手に動いたか……」 「とにかくまずは騎士団から殿下に忠誠の厚い者を集めましょう。カートは戻すのですか?」 「敵情視察の手配を整えたら戻ると言っていた」 「ではクローディア様の警護はカートを中心に据えましょう。それまでにこちらでは人選ですね。城内の怪しい者については部下に探らせています。ただやはり、動きづらいのは確かですね」  ここで彼は「ところで」と区切ると、地図からエルキュールに視線を移した。 「どうにも腑に落ちないのですが、昨日は全部で十人の騎士と弓兵がいたのですよね? いくら殿下が剣豪と言ってもクローディア様を守りながら戦い逃げると言うのはかなり難しい気がします。そもそも弓兵をどうやって落としたのですか」  ぐ、とエルキュールが回答に詰まる。気まずい表情を浮かべ目線を反らす。  何か隠しているのは明白だが、何をそんな隠さねばならないと言うのか。 「あー……それはだな」 「殿下、誤魔化すのは下手なのですから正直にお話下さい。今後の警備にも影響があるやも知れません」 「それは分かっている。分かっているが、俺一人が勝手に――」 「一人? という事はクローディア様にも何か関係がございますのでしょうか」 コンコンコン  ノックの音にエルキュールが「助かった」と内心こぼした。  ルブラードが目で「絶対に追求します」と訴えつつ対応した。  そこには、遠慮気味にルブラードを見上げるクローディアがいた。 「クローディア様、おはようございます」 「おはようルブラード様。今大事なお話中かしら? お邪魔ならお部屋に戻るのだけど……」 「いえ、丁度良い所でした」 「丁度良い?」  クローディアは中に通されると、デスクの前にいるエルキュールの元に小走りで近寄った。  今まで軍人の顔で会話をしていたエルキュールの表情がすぐに緩み、腕の中に迎え入れると軽くキスを交わす。   「おはようディア。まだ起きるのには早くないか」 「起きたらエルクがいなかったの。もうお仕事かなと思ったら、私だけ寝てるなんて出来なくて」 「昨日は――」  ちら、とルブラードの方を見る。  彼はわざわざ書棚の方へ向かい、知らない顔をしている。
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