憑いてきた

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「あ、あの、私やっぱり出て行きます」 「いえ、クローディア様にもお伺いしたいことがございますので」  五分前の会話をルブラードは忘れてくれなかったようだ。 「先ほど殿下にお伺いしたのですが、なかなかお答えをしていただけなくて。昨日の襲撃についてお聞きしてもよろしいでしょうか」 「私に?」 「はい。殿下、よろしいですね?」  確認されたエルキュールは、クローディアの隣に座ると「話さなくてもいい」とその手を握った。 「えっと……?」 「担当直入にお伺いいたします。襲撃人数と状況を踏まえますと、いくら殿下であっても怪我もなく切り抜けられるとは思えません。一体どうやって逃げおおせたのでしょうか」  クローディアの表情に不安の色が浮いた。  エルキュールの顔を見る。  また先程のようにその耳に口元を寄せた。 「ルブラード様は、死霊を悪用なさるようなお方?」 「それはない」 「私が一番恐れているのは、悪用されることなの。それがないのなら、私お話してもいいわ」 「嫌ならいいんだ」 「だって必要なことだから聞くのでしょう?」 「そうだが……分かった、先に俺から少し話す」  クローディアが頷くと、二人はルブラードの方に向き直った。 「では現状ここだけの話と言うことでいいか。言うまでもないが口外は無しだ」 「心得ております」 「クローディアがここへ来る前、彼女に付き纏った噂があったろう」 「死を連れて来る、と言った類でしょうか」  エルキュールは頷く。  クローディアの手を大丈夫だとでも言うように握り直した。 「彼女が連れて来るのは死そのものではない。死霊だ」 「……あれほど幽霊を信じなかった殿下の口からそんな言葉をお聞きするとは思いませんでした」 「彼女は死霊を使える。幽霊と対話したり、その魂を死体に入れることもできる。悪霊の浄化もだ」  想像よりも突拍子もない話に、流石にルブラードも黙って聞く。 「ついでに言うとだな……俺が昏睡していた時があったろう」 「死の森へ遠征に出た際ですね」 「そうだ。あの昏睡時、俺は……どうやら生霊になっていたらしい。体から魂が抜け出てしまったんだ」 「なんと返したらいいのか分かりませんのでどうぞお続け下さい」 「魂になると生きていた時の記憶が曖昧になる。俺はその状態で森をさ迷っていたところを、お互いにそうと知らず、彼女に死霊兵として使役されていてだな……」 「初耳でございます」 「それはそうだ。俺も確信がなかったのだ。昨日それを思い出した」 「使役されて何をしていたのでしょうか?」 「彼女の護衛だ。つまりあの森の不可解な幽霊騒ぎの一連は彼女がエーノルメを追い返すためにしていたこと。俺の昏睡中に父上が捕らえられたのは……俺が追い詰めたからだ」 「なんと」 「それでだ」  エルキュールがクローディアを見る。今度は昨日の話だ。
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