憑いてきた

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「襲撃があった時、たまたま街道に幽霊が一人いたんです。エルクが最初の一人を返り討ちにした後、その遺体に入って手伝ってもらいました。襲撃が事前に分かったのも、人数が把握できたのも、その幽霊のお陰です。あの、窓の外について来ちゃったんですけど……」  ええっ!? っと同時に素っ頓狂な声を上げて外を見るルブラードとエルキュール。  エルキュールはセージが焚かれていないので感じることが難しいらしいが、クローディアの目からは勝手に庭を散策している旅人の姿が見えた。 「昨日は慌ててたのもあって、器から解放だけして……。冥界に下ったわけじゃないので、そのままあの場に残ったと思ったんですけど、さっき起きたら外にいたので……」 「あ……悪影響はないんですよね」 「そういうのは大丈夫です。多分私に付いて来たんだと思います。冥界に還してあげたいんですけど、そればっかりは本人にもう少し死んだことを思い出してもらわなければ出来なくて……すみません、何も害はないからそこにいさせてあげてください」 「えぇ……私は構いませんが……。分かりました。正直にお話しくださりありがとうございます。そうですか……殿下が生霊に……。ちなみにそのまま体に戻らないとどうなるのです?」 「体が死に、本当の死を迎えることになるそうだ。ディアはそれを避けるために気づいてすぐに俺を還したんだ。昨日やっと分かった。あの時俺が叫びたい名はクローディアだったと」  エルキュールが昏睡から目覚めた時の取り乱しようは一部の者には有名だ。  その場にはルブラードもカートもいた。  目を開きほっとした瞬間、王子はガバっと起き上がると何かを探して狼狽えていた。  口を開けては閉じ、何かを言いたいようだったが、それはクローディアと叫びたかったのだと今分かった。  王子は呼べない名前の代わりに、言葉にならない叫びを上げていた。  どこか悲痛なものに感じたのは、共に過ごした間に特別な想いがあったのだろうと、今ならそう思えた。 「殿下、ようございましたね。再会を果たせて。クローディア様もそうではないのですか?」 「はい。私、白骨死体の彼に、初めての恋をしたんです。体に戻ったら今度は死霊だった時のことは忘れてしまうし、嫁ぐことが決まっていたから、もう二度と会えないと思っていました」 「通りでお帰りになられてから親密さが異様に上がったと思いました。私は危機を共に乗り越えたせいかと思っていましたが、流石に今の話は想像出来ませんでした」  ちらりと崩れたスカーフに目をやる。  王子が昨夜ついに思いを遂げたであろうことは明白だった。 「では本題です」  急にルブラードの話ぶりが敏腕官僚に切り替わると、見えない何かを見るように窓の方を向いてから言った。 「彼? 彼女? を、雇うことは可能でしょうか」  今度はクローディアとエルキュールが同時に「え!?」と声を上げた。
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