シャンピー

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シャンピー

「あと三日ですね、披露パレードまで」 「なんだかいろんな気持ちがごちゃ混ぜになって落ち着かないの。だって婚礼の儀はきちんと臨めなかったし、私披露パレードの方が本番のような気がしてしまって」  城内の警備について見直してから数日後、クローディアはリーユと共にお茶請けのお菓子を作っていた。  ジュレと共にこうして並んで生地を練ったのが懐かしい。  彼女は遠くで見守るようなことを言ってくれたが、もう二度と会えないことだけは分かっていた。  どこかで元気にしているだろうか。  相変わらずあの骨の姿なのか、それとも幻の肉体を纏い人々の中に紛れているのだろうか。 「さあ、少し生地を寝かせましょう。それにしても今日は随分と沢山ご用意するんですね。まさかこれクローディア様全部お一人で……」 「そんなことしないの! 王都の騎士団から護衛に来てくれた人が増えたから、お礼をしたいの。クッキー、みんな喜んでくれるかな? 砦の兵士は喜んでくれたのよね」  ルブラードとエルキュールによって早急に人選をし、今この城にはクローディアとエルキュールの護衛の数が増えた。既存の警備兵には嫌な顔をされたが、呼ばれた意味を分かっている彼らは意に介さない。  戻って来たカートを隊長に、昼夜を問わず警備が敷かれている。  そして忘れていけないのは、あの旅人の幽霊。  彼に警備の話を持ち掛けると、金銀や宝石を対価に引き受けてくれた。  名前は糸杉(シプレ)の街道にいたことから、シッピーと付けられた。  エルキュールの見立てによると、彼は街道を行く商人を襲う盗人だったのではないか、とのことだった。  死体に入って動いた時に、作戦を簡単に理解したことと身のこなし、そして金品への執着からそう思ったようだ。  クローディアに憑いて来たと言うのは、なんだか彼女に気がある用で少しばかり嫌な気がしなくもないが。    シッピーは基本的に城を自由気ままにさ迷っている。  霊感の強い人間は彼が通り過ぎた時に何か感じるようで、びくっと体を震わせ周囲を見回す様子は少々可哀相だった。気ままなようでて仕事はしてくれるので、クローディアとエルキュールは心配事が少し軽減された気がした。  盗賊稼業など褒められた職ではないが、彼の悪い人間を見抜く目はなかなか役に立つ。  何も起きなくても、警戒しておくには越したことがなかった。 「きっと喜びますよ。可愛い奥様の手作りなんですもの。喜ばないなんて罰が下ります」  そう言って扉の方を見る。  そこには護衛騎士が二人、無言で首を縦に振っていた。 「そうだといいな。砦のみんなも元気かな……戦いが無くなってよかったの。誰かが死ぬのは嫌だから」 「私の兄も……」  使い終わった道具を片付けながら、ふとリーユが遠くを見つめた。 「兄も、傭兵で先の戦に参戦していたんです。四年前、国境の戦いへ。薬の金を稼いでくる、だからいい子で待ってろって言って、そのまま帰って来ませんでした」  クローディアは言葉もなくリーユの手を取る。  二人の手についていた生地が乾いて、パラパラと下に落ちた。
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