シャンピー

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「戦は終わったのに兄は帰らなくて。きっと死んだんだなって思いました。それから三年、私生きるために色んな大人の元を転々として。そんなある日突然、兄の遺品と報酬が届いたんです。転々としてしまったからなかなか私の元に届かなかったけど、でもちゃんと届いたんです。その時初めて兄が死んだって現実として捉えて、遺品を前にたくさん泣きました。兄は命をかけて私を生かしてくれたんです」 「その制度を作ったのは殿下です」  今まで黙っていた護衛の一人がそう言った。  本来彼らが口を挟むのはあってはならないことだが、クローディアは彼らにもあまり距離を取らずに接して欲しいとお願いしていた。 「傭兵の報酬が行先不明で未払いになることが多く、きちんと遺族に届くよう制度を整えられたのは殿下です。それまでは仲間が直接渡すか、或いは他人が着服してしまうことがざらだったので」 「じゃあ、私がこうして元気でいられるのは殿下のお陰でもあるんですね……。ちゃんとお礼が言いたいです。兄も喜んでるんじゃないかな」 「じゃあお茶の時に一緒に話しましょうよ!」  そして一時間後無事クッキーは焼き上がり、それらはお茶の時間の前にエルキュールと共にクローディア自らが寮へと運んだ。  クローディアの心配をよそに、彼らは砦の兵士と同じように喜んでくれた上に、エルキュール個人だけでなくクローディアへの忠誠度も上げる結果となった。  そしてリーユが庭に用意してくれていたお茶で一息つく。  ちゃっかりシッピーまでやって来たので、事情を知らないリーユが首を捻る中、クローディアは彼の分の席も用意してもらうとクッキーを数枚捧げた。 「そうか。三年の時を経ても手元に渡るならきちんと制度が生きているようだな。施行した後戦続きで携わることが出来なくなっていて半ば忘れていた。そうか、三年……三年?」  エルキュールの手がティーカップを持ち上げたまま止まった。  クッキー作りの最中クローディアにした話を、今度はエルキュールに話しリーユが厚く礼を述べた時だった。 「どうしたの?」 「いや……三年……ああ、シャンピーだ。彼もあの時死んだのは三年前と言っていた。病気の……妹に……」  クローディアは冥界で彼と会っていたが、別れの挨拶と名前以外には聞いていない。  二人してリーユの顔を見た。
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