シャンピー

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「なにか?」 「リーユ、君の兄の名前はもしやジルではないか?」 「ああ! リーユ・ローレ……私なんで気づかなかったのかしら。シャンピーはジル・ローレって言ってたの!」 「確かに兄はジルですけど……?」  一瞬の空白の後、クローディアが立ち上がってリーユの手を取った。 「私、あなたのお兄様に護衛をしてもらったことがあるの! とてもお話が面白くて強かったわ!」 「俺も数日だが一緒にいたことがある。君のことを案じていたが金が渡ったと知り――」 「待って、待ってください。それはいつのお話ですか? だって兄はエーノルメの傭兵なんですよ? いつクローディア様の護衛をして、お金が渡ったと知ったのはいつなんです?」 「あ……」  クローディアとエルキュールが顔を見合わせた。  凄い偶然に嬉しくなり、そしてエルキュールもそんなクローディアに釣られ慎重さを失ってしまった。 「あのね、リーユ……」  クローディアがエルキュールの目を見ながら口を開いた。  エルキュールはその目を見て頷く。彼女には話してもいいだろう。むしろ知る権利があるかもしれない。  彼は自分の椅子をクローディアの傍に置くと、リーユに座るよう促した。  困惑のまま腰かけると、クローディアは彼女の方に向き直り小さな声で説明を始めた。 「リーユ、私がジルに護衛をしてもらったのは、約一年前までの話なの。この結婚が決まる直前。きっとお金もその頃にあなたに渡っていると思うの」 「確かにその頃です……遺品……兄がいつも首に下げていた、私が子供の時にあげたお守りと一緒にお金が届いたんです。お守りって言っても貝殻なんですけど、初めて戦場に出た時にそれを持っていたら生きて帰れたからって、(げん)担ぎみたいに……。でもその時は割れていたんです。だから戻らなかったのかな、って思いました……でも一年前って……」 「悲しいことを思い出させてごめんなさい。私がジルに出会ったのはね、もう亡くなった後の話なの」 「どういう……?」 「クローディアは死者の魂と通じることが出来る。その空いている椅子にも、恐らく一人座っている」  リーユがばっと顔を上げた。  空席に置いたクッキーはもうなくなっていた。 「クッキーが……」 「私が供物として置いたから、彼はそれを捧げものとして受け取ったの。彼も私の護衛よ。怖くはないから大丈夫」 「じゃあ、じゃあ兄と話せるんですか!? 私お兄ちゃんのお陰で一人でも生活できるようになったよって、薬もちゃんと買えたよって、ちゃんと、ちゃんと伝えたくて!」 「ごめんなさい。もう彼は冥界の綺麗な場所へ旅立ってしまったの。でもあなたにお金が渡って、自分のために泣いてくれたことを喜んでいたわ。彼がさ迷っていた原因も、あなたのことが心配だったからなの。お金が渡ったことを知って、そして逝くべき所を思い出して……最期に私を守って、そして旅立って行ったの」 「お兄ちゃん……」
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