幽霊騒ぎの元凶

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「貴様か! 妖しい術でもって死を冒涜したのは!」 「ぼうとく? ……冒涜なんてしてないの! ちゃんと対価払ってお願いしたんだから! ……一部後払いだけど」  懸命に声を張り上げる声は、命乞いや嘆きではなく王子の言葉を否定するものだった。 「お願いして来てもらってるんだから冒涜じゃないもの!」 「死んだ後は安らかに眠るだけの者を叩き起こし戦わせるなど冒涜以外のなんだと言うのだ!」 「全然寝てないもん! 寝てないからこんな森をさ迷ってるんじゃない!」  どうやらこの少女と王子の生死感はズレているらしい。  王子は一瞬あっけにとられた後、そんなものを論争しに来たわけではないことを思い出した。 「この森で我々の仲間を殺したのは貴様か」 「私は殺してないの! 勝手に入って来て、勝手に迷子になって、勝手に死んだんじゃない! それを言ったらフィルディの兵士だってたくさん死んじゃったわ! みんな戦場が煩いからってこの森に来ちゃうのよ」 「ではそんな哀れな戦死者を使役するためにここに呼び寄せたのか?」 「そうじゃないわ、近くにいたから助けてもらってるだけ。先に死体や幽霊がいなければ使役できないもの!」  なるほど、と王子は妙に納得してしまった。  鶏が先か、卵が先か。  どうやらこの場合、死体やさ迷う魂が先にここにあることが前提らしかった。 「ならば貴様――」  王子は最後まで言葉を言えず、その場に崩れ落ちた。  起き上がり自分の頭を付け直したシャンピーが、落ちていた馬の大腿骨で王子の首のあたりを強打したのだ。 「きゃああ! 殺しちゃったの?」 「死んでいないことはクローディアが一番分かってるんじゃないか」 「そ、そうね……ど、どうしよう?」 「まずはクローディアを小屋に届ける。その後俺が国境までこの男を返して来くる」 「そう、それがいいわ。お願い。こんな所で王子が死んだら戦争が始まっちゃうの……」  シャンピーの手によって大腿骨その他の骨を返された馬に乗り、クローディアは無事小屋に辿り着いた。  シャンピーはすぐさま引き返し、卒倒した王子を自分の鞍の前に乗せた。  その時彼は王子の身体に少々違和感を覚えたが、先に国境まで逃げ伸びた連中の近くに王子を放り出すと、王子の身を案じ右往左往する侵入者の野営地に矢を一本射る。これで偵察に来れば分かるだろう。  彼が小屋に戻った時、主はデザートのために人参と格闘する最中だった。
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