シャンピー

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 ぼろぼろと大粒の涙がリーユの瞳から零れた。  クローディアが彼女を抱きしめると、お兄ちゃんと繰り返しながら泣いていた。  嗚咽が響くたびに、クローディアにも悲しみが伝わって来る。  シャンピーが、ジルがずっと守ってくれた日々を思い出した。 「私もね、一人で暮らしていた時がったの。その時の私を守って、楽しい話をしてくれて、寂しくないようにしてくれたのはジルなの。もう一人一緒にいてくれたお友達がいたけど、彼女も生きた人間とは少し違って……ジルとは仲良しさんだったのよ、そのお友達も」 「あれは仲良しとは少し違うだろう。手玉に取られると言うんだ」 「ジュレはきっと妖艶なお姉さんなんだわ。砦の兵士もそんなことを言っていたから」 「殿下もご存知なのですか?」 「ああ、少しだが共に戦ったしな。なかなかいい太刀筋をしていたぞ」 「お兄ちゃんは、寂しがったり、怖がったりしていませんでしたか?」 「死の瞬間は知らないの。私が出会ったのは彼が悪霊になりかけていた時だから。悪霊になってしまうと冥界の綺麗な所には行けなくなってしまって、死より恐ろしいことが待っているって聞いたわ。だから私の所に来てもらって、悪いものにならないよう傍にいたの。そのうち悪い影響もなくなって、それで一年くらい、一緒にいたの」 「その間は、辛いこととか、苦しいことってないんですか?」 「肉体の痛みや苦しみはないの。最初はとってもぼんやりした魂だったけど、だんだん生前の性格が出て来て。でも記憶とは少し違うから、死んだときの恐怖や苦痛を思い出すことはないの。彼らが本当に恐ろしいのはもう死ではなくて、悪霊になったり魂の消滅を迎えることだから」 「じゃあ、悪霊から逃れて、兄は、兄は……幸せだったのですか?」 「魂の状態を幸福と呼んでいいのかは分からないけど、でも私彼がいたから毎日が楽しかったの。それって答えにならないかしら? 悲しんでいる人と一緒にいても楽しくなることはないでしょう?」 「良かった……ずっと、ずっと戦場に無念を残していたらどうしようって……傭兵なんだし、人の命もきっと奪って……死後に怖い所へ行ってしまったらどうしようって。本当に死んだかも分からないからお墓も作れなかったし、弔うことも出来なくて……よかった。お兄ちゃん、怖いことも苦しい事ももうなかったんだね。良かった……悪霊にならなくてよかった……」  リーユはしばらくクローディアの胸で泣いた後、涙に濡れた顔に笑顔を浮かべた。 「クローディア様、お兄ちゃんを助けてくれてありがとうございます。お兄ちゃん、ありがとうね。私元気だよ。お兄ちゃんが守ったクローディア様と、お兄ちゃんが稼いだお金をちゃんと届けてくれたエルキュール様にお仕えしているよ」 「リーユ、良かったら今度、私たちをお墓に案内してくれる?」  リーユはぎゅっとエプロンで涙を拭うと、綺麗な返事で「はい」と答えた。 「お茶が冷めちゃいましたね。私新しいお湯をお持ちしますね!」  そう言うとリーユはどこか晴れた表情で城内へと戻って行った。
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