シャンピー

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「お帰りシッピー、何か分かったかしら?」  彼女に倣ってお茶に手を伸ばした時、リーユでも護衛でもないものにクローディアは話しかけた。  護衛の一人がぶるるっと震える。  彼は霊感が強いのかもしれない。  ハトだ。街に飛んでった。  商人が受け取った。  誰かと通じてやがるが、俺は神殿には入れない。 「あの、護衛さん。エルクを呼んでもらえるかしら?」 「御意っ」  ぶるっと震えた方がこれ以上は部屋にいたくないのか、大急ぎで出て行った。  ほどなくしてエルキュール、そしてルブラードとカートも部屋にやって来た。 「ディア、何か分かったのか?」 「シッピーがね、さっきのメイドさん、鳩を飛ばしてたって。追いかけたら街の商人の所へ飛んで行ったのだけど、その先が誰に繋がっているかまでは見られなかったらしいの。神殿で落ち合っていたみたい。だから入れなかったの」 「鳩ですか。確かに鳩小屋はありますが、その中に紛れていることには気づけませんでしたね。あの襲撃の日も殿下たちが遠乗りに行くのを知りすぐに飛ばしたのでしょう」  ルブラードが推測を言うと、続いてエルキュールがそのメイドの話をした。 「護衛が部屋に着いた時にはもうメイドはいなかった。まあ誰かについてはシッピーに追ってもらえば分かるだろうが。部屋にも変わった様子はなかった。もしかしたら急に俺が増やした護衛の方を監視していたのかもしれん」 「もしかしたら警護の情報を流したのかもしれませんね」 「だが披露パレードまでもう時間がない。流石に三日であぶり出すのは無理だ」 「無茶な計画でこちらが窮地に立っては意味がないですからね。これは知らない顔して当日の警備を固めるしかないでしょう」  めでたいはずの披露パーティが、もしかしたら反対派の強行の日になるかもしれない。  ルブラードはクローディアを見たが、彼女はそれほど不安を抱いてはいないようだった。 「私エルクがいれば怖くないの」 「だそうですよ殿下」 「お前たち全員少し部屋を外せ」 「だめだよエルク、話が進まないよ」  クローディアに諭され、その場にいた全員が笑いを堪えた。  エルキュールが少々むすっとした顔をする。以前ならこれで誰もが押し黙ったのだが、クローディアを甘やかす彼を知った今その表情はただ拗ねているようにしか見えなかった。  その後クローディアも交え当日の対策を話し合う。  だが動かせる警備の人数が限られている以上大掛かりなことは出来ず、敵の手段をいくつか想定した上で逃げることに重点を置いた。  周囲の人間全てが敵と言うわけではない。蓋を開けてみなければ分からない事の方が多かった。 「それにシッピーも手伝ってくれるしね」  クローディアが嬉しそうに言うと、テーブルの上で揺らめいていたランプの灯りがふと消えた。  全員の顔が夕暮れの薄闇に暗くなる。 「これは……」 「あ、シッピーは物に干渉する力がそれなりにあるみたいね。今カート様の隣にいるの」  ルブラードがぎょっとしたようにカートの方を見る。  いつも静かなカートもこの時ばかりは席を立ち身震いしたのだった。
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