予想通りの襲撃と予想外の来客

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予想通りの襲撃と予想外の来客

   クローディアの故郷フィルディでの婚礼の儀は、エーノルメと同じく一部の近親者や高位貴族が招かれ神殿で厳かに行われる。  ただし披露パレードがエーノルメは一か月後に行われるのに対し、フィルディでは神殿での挙式後そのまま一続きに行われ、神殿から城までの沿道には多くの一般人が詰めかける。  そして城では盛大なパーティとなるのだ。  エーノルメでは城内でしめやかに披露宴が行われた後、馬車で城下の広場を一周して戻る。この時初めて民衆は噂の“死を纏う敵国の姫”を目撃することとなる。  悪い話が先行しているので、恐らく民衆は好奇の目でクローディアを見るだろう。 「ディア、あまり浮かない顔をしているな。不安か?」 「うん……」  不安を肯定はするものの、クローディアはその先を話さない。  もうそろそろドレスに着替え支度をしなければいけない中、エルキュールは表情を和らげると愛する妻をそっと抱きしめた。 「君が言い淀むのは珍しいな。だが分かるぞ。王城の住人の態度を見れば俺とて身をすくめたくなるだろう。針の(むしろ)のようですまない。だが俺も傍にいる。君を傷つけるようなことはさせない」  エルキュールは初対面である婚礼の儀の時から誠実に接してくれ、そして優しく愛してくれている。  思いの通じ合った今となっては彼と彼の直属の配下、そしてリーユに囲まれ忘れかけていたが、未だ“敵国の姫”の悪印象の方が強いのだ。  反対派のように命を狙おうとまでは言わずとも、クローディアが一人でやって来た頃の使用人と同じく、彼女を見る目は冷ややかだ。  エルキュールのいないあの三か月間を思い出し落ち込んでしまったのも仕方ないだろう。 「俺が君を愛していると分かればもう少し柔らかくはなると思う。今日はそれを見せつける日ではないか?」 「うん……うん、そうね。そうよね。それじゃあ、あの、さ、早速見せつけようかな?」  腕の中のクローディアが照れた顔のまま見上げて来る。  キスをおねだりされているのは分かるが、それがあまりにも愛らし過ぎた。 「見せつける相手も今はいないのに?」 「だってエルクのキス、ふわふわな気分になるから不安な気持ちも無くなるかなって……」 「愛らしいっ」  今は部屋に二人切りで見せつける相手はいなかったが、そんなものいようといまいと構わない。  彼女が望むのなら、式典の間ずっとふわふわでいてもらえるよう何度だってしたい。  エルキュールが顔を寄せるとクローディアは目を閉じ、唇に温もりが与えられるのを待った。  すぐにそれは望み通りに重なり、彼はあやすように数回食むと、すぐに唇を割って舌を差し込んで来た。  彼の厚い舌に触れ合うと、体の芯がピリッと痺れたように感じた後、今度は骨が溶けてしまったのかと思うほど体が支えられなくなってくる。  難しいことを考えるのは出来なくなってしまうと言うより、どうでもよくなってしまう。  胸の中にあった不安の氷が彼の熱ですっかり溶かされてしまい、最後に耳元で「愛している」と囁かれれば何も恐れることはない気になってきた。  すっかり息が上がり、ぼーっと彼を見上げると「私も愛してるの」とやっと押し出した声で答えた。
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