予想通りの襲撃と予想外の来客

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「ではそろそろお支度よろしいでしょうか」 「きゃぁあ! リーユ! い、いつから?」 「ノックもしましたし、殿下はお気づきでしたので!」  彼女の後ろには他のメイドも控えていた。  クローディアと同じくらい若いメイドの顔にも恥じらいが浮かんでいるので、水音までさせる深いキスをしっかり目撃されていたに違いない。 「見せつけることが出来たぞ?」 「も、もう……恥ずかしくて消えてしまいたいの」 「ならもう一度すればいい。何も考えられなくなるのだろう?」 「ではあと三分お待ちしますね」 「ま、待たなくていいの!」  エルキュールとリーユがそれを見て朗らかに笑うと、彼は隣室で支度するために出て行った。 「相変わらず仲がよろしいのですね」 「り、リーユもいるなら言って欲しいの……」  ドレッサーの前に立たされながら、クローディアはまだ照れていた。  エルキュールでなくてもその姿は可愛らしく、死のイメージとはかけ離れた様子に控えていたメイドもいくらか拒否感が薄らいだようだった。  ドレスを着替えるために服を脱ぐと、体のところどころには真新しい赤い花が散っている。  昨夜も王子に愛されたと分かる痕に、一部で流れていた噂「王子は敵国の姫を溺愛している」の方が真実のように思えた。  この日のために用意されたドレスは無垢なる白。  婚礼の儀のように神話的なデザインではなく時代に即したものだが、実はこのドレスはクローディアの母が着たものを少し手直ししたもの。  両親にこの姿を見せることは叶わないが、久々に家族を感じた彼女は、鏡の前の自分を見ると少し涙ぐんだ。 「クローディア様?」 「ごめんなさい。このドレスお母様のものなの。家族は最後まで私のことを心配していてくれたから、ちょっと思い出しちゃって。私ちゃんとエルキュール様に愛されてるよって、この姿を見せたかったな」 「この御姿は無理でも、いずれもっと気軽にお会い出来るようになりますよ。だってそのためにクローディア様がいらっしゃるのでしょう?」  せっかく薄化粧を施した顔が、涙に濡れてしまいそうになる。  リーユはハンカチで目元をそっと押さえてやると、クローディアは「そうよね」と言って笑った。  髪を整え、アクセサリーも付け、全ての支度が整う。  そして扉がノックされ、これも支度を整えたエルキュールがやって来た。
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