予想通りの襲撃と予想外の来客

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「姉上!」 「クリス!?」 「なに!?」  エルキュールは驚きつつも、素手で受け止めた腕を押し返すと武装市民の顔面に強烈な拳を喰らわせ馬車から突き落とした。  しかし後から後から現れる武装市民に、剣もなく向かうのは不利。  彼の窮状を見た老人が、異様に長い、赤いベルベッドに包まれた何かを馬車上に投げて寄越した。 「エルキュール殿下! これをお貸しいたしましょうぞ!」 「おお、フランベルジュか。アンクレー伯爵、感謝する!」  かつて白骨の騎士に与えたフランベルジュは、エルキュールの手にも馴染んだ。  アンクレー伯爵は「はて、殿下とはお会いしたことがないはず」と思いつつも何故か懐かしい気がした。  そして老体と馬鹿にすることなかれ、歴戦の戦士である彼もまた奪い取った剣を振るうと馬車に襲いかかる武装市民を斬っていく。 「アンクレー伯爵!」 「おお、姫! なんとお美しい! 後程ゆっくり愛でさせていただきましょうぞ!」 「姉上これは一体どうしたのですか!?」 「それよりクリス、あなたそんなに強かったの!?」 「いつまでも庭でオバケに泣いていた僕のままだと思わないで下さいよ!」  馬車に駆け上がったクリスティアンが、クローディアを庇うようにエルキュールと背中合わせになった。 「お初にお目にかかる。大事な姉上を妻に頂いたエルキュールだ」 「初めましてエルキュール殿下。クローディアの弟、クリスティアンと申します。姉上を泣かしていたら僕が斬ってくれようかと思っていましたが!」  エルキュールの背に飛んで来た矢をクリスティアンが切り払い、馬車にたかる武装市民をエルキュールが薙ぎ払った。  二人の立ち位置が逆転する。 「なら俺は一生君に斬られる心配はないな」 「エルクは優しいの!」 「姉上がそう言うのならきっと大丈夫なんでしょうね。兄上とお呼びしても?」 「もちろんだ」  クローディアの記憶にあるクリスティアンはもっとひ弱で、とても剣など握らないような優しい子。  エルキュールの元に嫁ぐ前に城でも少しの間一緒にいたが、彼女も自分の花嫁修業に必死でこんなに武芸に励んでいるとは思わなかった。  エルキュールと二人妙な一体感で戦う姿は、我が弟ながら頼もしさを感じる。  馬車の下でカートとアンクレーもまた不思議な共闘に励んでいた。 「お主、もしや砦の?」 「左様! まだまだ老いぼれとは言わせんぞ!」 「四年前の砦戦でお主に苦しめられたのを思い出す」 「若いだけの力技では砦の防衛は務まらんのでな。お主とは経験値が違うわ青二才め」 「味方となった今その経験値とやらをご享受願いたいものだ」  次から次へとかかって来る武装市民を押し返しながら、二人は平然と会話をする。  ルブラードが屋根上の弓兵の状況を見て、数が減ったことを確認した。  文武両道と言えど、文官の彼は流石に息が上がりつつある。  警備兵のほとんどはあちら側なので役に立たない。  武装市民に扮した何某かの私兵はやたら数が多い。  屋根からの攻撃はエルキュール配下の警備のお陰で止んだが、地上戦は埒が明かない。  普通ならばそろそろ国王の耳にもこの騒ぎが届き、場を収めに来るはずなのだが。    国王は城内での式典に出た後はもう引っ込み、臣下の報告にもあえてそのままほったらかしにした。  息子である王子も王子とその妻の命を狙おうとする輩もどちらも国王への忠誠心は薄い。  何事もやる気の低迷している国王はどちらも適当に潰し合えばいいと思っているようだった。  そんな中、気が付くと武装市民が散り散りになりいつの間にか退いて行った。  剣撃の音がまばらになり、野次馬根性の強い民衆の方が多くなってきた。  クローディアはふと妙な気配を感じ立ち上がった。
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