予想通りの襲撃と予想外の来客

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「ディア、まだ出て来るな」 「エルク……何か変……嫌な気配がする……」 「ひっ……姉上、もしかしてその気配と言うのは……」 「うん、クリスの苦手なもの。なんだろう……そんなものいなかったのに」  クローディアが辺りを見回す。  そう言えば彼女のみ扱える護衛が一人足りない。 「あれ……シッピーは? ずっと屋根の方にいたみたいだけど……」 「いや、俺には香を焚かれない限りは分からん」  クローディアは婚礼衣装のポケットにも念のため忍ばせていたセージを取り出すと火を点けた。  それを馬車の下に投げ、辺りが神聖な空間になっていく。 「あ、兄上もまさかそんな力が……」 「いや、俺はそんな力はない。この辺の話はまた後程として……」  二人で辺りを見回す。  シッピーとは違う嫌な気配が近くにある。 「エルク……あれ……なんだか変なの」  彼女の言う方を見ると、体をくねらせ何かに苦しむ男がいた。 「あの人、憑かれてる……」 「はっ!?」  エルキュールもその男をよく見た。  うっすらとだが、あの死の森の中で骨の腕を失った時のような、悪霊めいたものがそこにまとわりついていたのだ。 「あれ……嘘……シッピーだわ」 「何故。彼はそういう悪いものではなかっただろう?」 「理由は分からない……シッピーは悪霊になりかけてるしあのとり憑かれた人も早くしないと憑り殺されちゃうわ!」  彼女は祝福されしフランベルジュを持ったエルキュールと共に急いで馬車を下りると、婚礼のドレスを揺らしながらシッピーと思しき霊の近くまでやって来た。  野次馬がさっと散り、うずくまってしまった男と死を纏う姫、そしてエルキュール王子だけがその中心にいた。 「お前は……オートリー伯爵!?」 「ぐ、ぐお……」  オデ……オデ……ナンダ……  コイツ……くろーでぃあ、ネラウ……  ワルイヤツ、オデ、ワカル……  コイツ……ツイテヤッタ。コロシテヤル……オアァァ……くろーでぃあ……オデ……クルシイ……  オートリー伯爵が苦悶の表情のまま、シッピーの声で話した。  恐らくシッピーはクローディアを守ろうとしてくれたのだ。  守るためにこの男にとり憑き、呪い殺そうとしている。  元々あまり素行のよろしくない人間だったのに、そんなことをすれば悪霊になってしまってもおかしくない。既に言葉を無くしかけている。
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