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「シッピー、何があった!?」
「私、シッピーとお話するわ」
「頼んだ」
シッピーは屋根の上に弓兵を邪魔する傍ら、地上で怪しい動きをする男を見つけた。
案の定、と言うべきかもしれない。
怪しい男、市民に紛れたオートリー伯爵の元にはひっきりなしに何かお伺いをたてる者がやって来ては、二、三言葉を交わして去っていく。
そしてこの襲撃。
彼が主犯なのはシッピーの目にも明らかだった。
「シッピー、一体あなたどうしたの」
「……コイツ……くろーでぃあ殺ス……イヤダ……オデハ、くろーでぃあ、マモル……」
「ありがとうシッピー。あなたのお陰で私こうしてかすり傷一つないよ。さあ出て来て。また一緒にお城に戻りましょう」
「オデ……コイツ、イッショ……イッショニ、ツレテク……」
シッピー、あなた自分の行くべき場所を思い出したのね。
でも、どうしてそんなやり方。
それじゃああなた、とても悲しい場所へ行かなければならなくなってしまうわ。
このまま彼の言う通りにさせていれば、冥界の綺麗な場所へは行けず、二人揃ってクローディアが浄化しなければならないことになってしまう。
クローディアに後悔の念が浮かんだ。
「ごめんなさい、ごめんねシッピー。私が関わらなければ、あなたこんなことにならなかったかもしれない」
「それは分からない。あの糸杉の街道に留まっていても、いずれこうなったかもしれない」
エルキュールはそう言いながらフランベルジュの柄を握り直す。このまま悪霊化したと思ったら、クローディアがどう言おうとすぐに斬ってしまうつもりだった。
この大勢の市民を巻き込むリスクは冒せない。
「でも、でもだったら私はもっと早く気づいて彼を送ってあげるべきだったのよ。偵察に便利だからって、彼のことを考えもせず使ってしまったから……」
目の前の黒いモヤには時折白いものも混ざり、まだ完全に悪霊へと変貌していないような気もする。まだ時間はありそうだ。それなら彼の声を聞くことでどうにかなるかもしれない。
「ディア、君が森でしたように、彼の嘆きを聞くことは出来ないだろうか。俺も共に」
「今のエルクなら出来ると思うの……私、ちゃんと送ってあげられるかな」
「まだ彼は完全に悪いものに成り切ったわけではないだろう。それならば間に合うのではないか?」
「分からないやってみないと。でも、送れるならちゃんと冥界に送りたいの……」
黒いモヤはオォォオと呻きながらもまだどこかに自我を持っていた。
早くしないと、本当に悪霊になってしまう。
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