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「やれる。君なら」
もしもの時は、君が嘆くのを承知で俺が斬る。
クローディアが祈るように目を閉じる。
エルキュールもまた彼女と手を繋ぎ、同じように目を閉じた。
クリスティアン、アンクレー伯爵、そしてルブラードとカートが襲撃の残りを警戒する中、二人が無防備にも悪霊になりかけているらしい幽霊の護衛の話を聞いた。
最初はたどたどしい言葉を繰り返していたシッピーも、徐々に元の彼を取り戻す。
「オデ……オレ……おれは……待っていた……あの街道で」
苦悶の伯爵の顔が普通のものになり、そのままシッピーの声で語り始めた。
「何を待っていたの?」
「俺は街道を通る商人を狙う盗賊団の一人だった。商人はどれも悪辣なやつばかり。義賊のつもりだったんだ、俺たちは。ある日奴隷商が通りかかった。当然俺たちはそいつらを狙った――」
奴隷の中にはひと際美しい娘がいたと言う。
盗賊団は商人を襲い、金品と奴隷を奪った。
だが“義賊”と言っても結局人の物を盗って生活しているに過ぎない。それに本当に義賊であるのなら奪った金品を貧しいものなどに分配して初めてそう名乗るものだろう。
彼らはただ悪辣な商人を選んでいるだけで、それで自分たちを正当化していたと言う。
仲間の内で、あの美しい娘を巡って争いが起きた。
元々モラルなどあるような集団ではない。
シッピーはそんな中で、他の盗賊よりは少しだけまともな人間だった。
争う仲間たちによって他の奴隷は売り飛ばし、美しい娘とは“順番に”楽しむ流れになった。
シッピーはそれを聞いて、娘を不憫に思った。
これから夜通し、薄汚い男たちを相手にするのだ。
彼は娘を攫って盗賊団から逃げる決意をする。
しかしすぐにそれは仲間にばれてしまい、彼は仲間だった者たちから袋叩きにされると、辛うじて息をしている状態にされてしまう。
結局、動けない彼の前で娘は泣き叫び、徐々にその叫びは絶望に変わり、無になり、明け方に狂ったように笑うと痙攣を一つして絶命した。
血と涙と男たちの欲望と泥にまみれた彼女を見送ると、シッピーもついに鼓動が止まる。
彼は、自分と娘が人目につかない岩場に隠され、その体が獣と鳥に喰われる様を上から見ていたと言う。
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